ソフトバンクが買収するARMという企業が、どういう事業を行っているのかなどに関しては7月21日に掲載した記事で説明した。今回は、その買収の金額である約3.3兆円は高いのか、安いのか、それとも妥当な金額なのかについて考えていきたい。
今回ソフトバンクが発表したARMの買収金額は、約3.3兆円(約240億ポンド)と非常に巨額になっており、それが話題を呼んだ。この約3.3兆円の根拠は、買収発表前のARMの株価に対して約43%のプレミアムを乗せた金額となっており、ARMの株主に対してもメリットのある額とされている。
実際、ARM側もこの買収提案を歓迎しており、株主に対して提案に応じるように取締役会は推薦している。つまり価格の面からはARM側にとってもかなり満足できる数字ということだ。
このため、ソフトバンクは高値を掴まされたのではないか、そういう批判も早速あがっている。しかし、ARMや半導体産業に詳しい関係者であれば、将来のARMの成長性を考えれば安いという受け止め方が一般的だ。なぜそう考えられているのか、 順序立てて説明をしていきたい。
前回の記事でも説明した通り、発表されているARMの決算を見る限り、ARMという会社は非常に健全な経営が行われており、今後も赤字になる理由が見当たらない。ARMは、CPUやGPUなどの"設計図"となるIPライセンスを開発し、それを顧客となる半導体メーカーに提供するビジネスモデルとなっている。
その詳細なライセンスモデルの内容は公表されていないが、多くの契約は製品ごとにライセンス料を徴収するモデルになっていると考えられている。前回の記事でも説明した通り、モバイル市場のARMの市場占有率は85%とされており、言い換えればスマートフォンが1台売れる度に、ARMのお財布にチャリンチャリンとお金が貯まっていくという仕組みだ。
こうした製品ごとのライセンスモデルは、ソフトウェアでは一般的な方式だが、それをハードウェアビジネスで構築できているのがARMの強みだ。
IT業界ではこうした“税金型”のビジネスモデルを構築できた企業は、強い力を持っている。ユーザーが検索する度にお財布が潤うGoogle、ユーザーがPCを買う度にお財布が潤うMicrosoftの例を持ち出すまでもなく、産業全体から広く浅く料金を徴収することができる仕組みを構築できている会社は、その収益性や規模で他社を圧倒しているのは読者もよくご存じの通りだろう。
ソフトバンクの買収金額が高いか、安いかを議論するには、そうしたビジネスモデルがすでに成長しきっているのか、それともまだまだ成長の余地があるのか、それこそが重要なポイントになる。
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