2011年夏の大規模な端末発表会を見送っているソフトバンクが5月26日、興味深い2つのサービスを発表した。それがAndroidアプリのパック配信となる「スマートセレクト」(スマセレ)と、その中に含まれる「ソーシャルフォン」のバージョンアップだ。
アプリの取り扱いでは、NTTドコモとKDDIが先行して独自のAndroidマーケットを開始しているが、それとはだいぶ様子が違う。今回の発表から読み取れる範囲で狙いを探りたい。
スマセレをみて、米国のアプリパックの一括ダウンロードサービス「Sprint ID」を想像した人は結構なモバイル通だろう。米国の大手通信事業者Sprintが提供している変則的なAndroidマーケットで、あらかじめ用意された興味やカテゴリなどで分類されたアプリパックを一括でダウンロードさせる。パック間での移動も可能で、Android搭載スマートフォンにいくつもの「テーマ」にまとめられた環境が用意できる、というものだ。
率直にいって、Androidマーケットの構造は複雑だ。先行するドコモマーケットとau one Marketはともにそれまでフィーチャーフォンで提供してきたアプリマーケット(i-modeとezweb)のスマートフォン版(独自審査と課金)という体裁をとっている。ソフトバンクが同じ路線ではなく、スマートセレクトという選択を取ってきたことは、この複雑な構造をできる限り交通整理したいという姿勢が見え隠れする。
なかでも一番のポイントがGoogle ID不要のダウンロードだろう。ユーザーは今回提携が発表されたR25やmixiといった「わかりやすい」テーマを選ぶだけで、無機質なアンドロイドが使えるスマートフォンに変化する、いわゆる着せ替え的なアプローチだ。明らかにターゲットを高リテラシー層に合わせていないだけに、このGoogle IDという敷居が大きな壁になる可能性があった。それを取り除いたことは高く評価できる。
今後、スマセレはメディアやゲーム会社などを中心に広がっていくだろう。発表にもあったCanCamなどの女性誌やゲームアプリを一括でダウンロードしてもらうメリットは配給側にとってはプリインストールに近いだろうし、ユーザーにしても選択肢が増えることで、徐々にスマートフォンの本来あるカスタマイズ性が理解できるようになるだろう。
2月25日に発表されたmixiの「ソーシャルフォン」は、事前にあったFacebookフォンという話題も手伝って一時メディアを賑わせてくれた。HTC製の「ChaCha」や、INQ mobileの「INQ」のようにハード的にFacebookなどのソーシャルサービスへのアクセスを快適にしたものや、アプリ形式のmixiソーシャルフォンのようなアプローチなど、まだ定義自体も曖昧だ。
スマセレとして提供されるソーシャルフォンはmixiが提供するアプリの改良版で、いくつかの機能が追加されている。詳細はこちらの記事をみてほしい。やはりハードとの連携は見送られたわけだが、全方位外交を望むmixiとしては当然の判断なのだろう。それよりも注目したいのが、前述のスマセレでソーシャルフォンと「セット」になっているいくつかのAndroidアプリだ。
なじみのある「pixiv」や「30min」、友人のおすすめアプリを教えてくれる「Friendapp」など、いくつかのアプリがスマセレのパッケージとしてダウンロードされる。なぜソフトバンクはソーシャルフォンに別会社のサービスアプリをパックにしたのだろうか。
ヒントになるのが「mixiとの連携」だ。それぞれのアプリはmixiと連動しており、個別にログインすることなしに、mixiチェックやいいね!ボタンなどを配置してアプリ内でのアクティビティをmixiへ流すことができる。例えば、pixivアプリでイラストにコメントすればその内容をマイミクと共有することができる。
つまり、Androidで起こった出来事をmixiというプラットフォームを通じて、より広いユーザー、例えば非アンドロイド、非モバイル、もちろん非ソフトバンクユーザーとも共有できる。ソフトバンクの開発陣はそういう世界観を作りたかったのではないだろうか。
では、ソーシャルフォンは「mixiアプリ最適化スマートフォン」という殻を破ることができるだろうか。ChaChaやINQはいわゆる「Facebookが使いやすい」スマートフォンだ。これをソーシャルフォンとするならばニッチ化は避けられない。しかし、ソフトバンクとmixiはソーシャルフォンをあくまでアプリとして提案し、スマセレという方法でダウンロードの敷居を下げ、同梱アプリのアクティビティをソーシャルグラフに配信する、という「きわめて」王道のアプローチを取ってきた。
立ちはだかるのはユーザーの理解だ。常にソーシャルウェブに身を置き、情報を追いかける私たちでもこの話題は最先端のものだ。これをユーザーが果たしてどう理解し、楽しみ、便利に使うのか。これから起こるユーザーの反応を注意深く観察し、モバイル天国といわれる日本から真のソーシャルフォンが生まれることを期待したい。
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