総務省による「モバイルビジネス研究会」。4月26日に開催された第6回では、これまで研究会で行われてきた携帯キャリアや端末メーカー、MVNO関係者などによる意見陳述を踏まえて、改めて研究会で議論されるべき主要な論点の案が総務省側から提示された。同時に、研究会構成員による海外事情についての調査結果も発表。さらに、総務省が端末メーカーなどに対して行った「非公式ヒヤリング」の結果も文書として報告された。
非公開ヒアリングは、こうした研究会では「異例の措置」と言えるもの。この措置は、端末仕様の決定からマーケティング、販売までを携帯キャリアが主導しているという日本市場の特殊な状況の中で、端末メーカーが公式には言いにくい意見もあるのではないかとの思惑から、総務省が匿名で実施してきた。ヒヤリング内容の多くは、端末メーカーの公式見解(第3回モバ研記事を参照)をなぞったものだったが、「匿名」ならではのメーカーの「本音」も、いくつか含まれていた。
販売奨励金など現行ビジネスモデルのメリットとデメリットについての意見としては、「非常に高機能な端末が0円で売られている事実は、子どもたちにどのように映るのか。電機製品に対する相場観がなくなったり、ものづくりの価値が理解できなくなることが心配」、「過剰な低価格は端末開発・販売に関わる人のモチベーションを落とすのではないか」、「奨励金があろうとなかろうと、ワイヤレスブロードバンドの需要は間違いなく存在する」など、現行のビジネスモデルに対する懐疑論もいくつか見られた。
また、日本メーカーの海外シェア低下については「メーカー各社は海外から撤退してきた直後であり、体制を立て直している時期。世界的に通用するような状態になったら、もう一度海外に出て行く意志はある。そのための時間がほしい」との本音も明かされた。さらに、日本と海外の市場の違いとして「商品サイクルは、日本では4〜6カ月しかないが、海外では短くても1年半はある。海外市場の方が格段にリスクは少ない」との指摘もあった。
さらに「プラットフォームの共通化により、ネックとなっている開発コストを下げて利益が出せるようになることが必要。キャリア間を含めたプラットフォーム共通化ができれば理想的」という意見も見られ、「キャリアごとの差別化」を主張する携帯キャリアとの温度差が垣間見える内容もあった。
研究会の主要な課題である販売奨励金制度や欧米や韓国などの実態について、研究会構成員である野村総合研究所上級コンサルタントの北俊一氏による調査結果が報告された。
北氏は、現在日本で問題視されている販売奨励金について、欧米諸国ではむしろ活性化する傾向にあると指摘した。その背景には、日本と比較して格段に多い携帯電話のプリペイド契約が、徐々にポストペイ契約に移行しつつある状況があるという。さらには日本よりも遅れて3G(第3世代携帯電話)への移行が進みつつあり、それらの流れを加速させるために販売奨励金を適用するケースが増えていると報告した。
たとえば、韓国で以前は規制されていた販売奨励金について、1年後をめどに完全解禁される決定がされていたり、同じく奨励金が規制されていたフィンランドでも、3Gの普及をにらみ、規制が解除された事例などを紹介。「この2カ国を除く主要国では、販売奨励金に対する規制は存在しない」(北氏)。
また、英国では携帯電話はほとんどが無料で購入できる上、さらにはキャッシュバックや、iPodやPSP(プレイステーション・ポータブル)などのプレミアを付けて販売されるケースも少なくないと指摘した。「最新のミドルクラス端末でもほとんどタダで購入できると言っていい状況」(北氏)。
北氏によると、諸外国での販売奨励金は、その多くが1〜2年間の契約期間を設定する「期間拘束型」だという。ユーザーが契約期間中に解約した場合は、契約の残存期間に応じて基本料金の全額を返金することを義務付けるという、日本のソフトバンクモバイルの割賦方式に似た方式だ。また英国では、日本のイー・モバイルのように、固定ブロードバンド網と契約をバンドルする料金プランも始まっているという。たとえばORANGEの携帯電話を契約したユーザーは、一定金額以上の料金プランに加入すれば、同社が提供する固定BBサービスにも無料で加入できるなど、「もはや携帯電話だけの戦いではなくなってきている」(北氏)。
またSIMロックについても、調査対象となったほとんどの国では実施されている。ただし、契約拘束期間が終了すればSIMロックを解除することは可能で、拘束期間中でも有料で可能など、日本に比べて柔軟な対応がされていると北氏は指摘した。
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