もし今使っている電話番号を変えずに、他の携帯事業者に乗り換えることができたとしたらどうだろう。そんなサービスが、日本でも近いうちに実現する可能性がある。
総務省は11月10日、携帯電話の番号ポータビリティの在り方に関する研究会を都内で開催した。座長には東京大学名誉教授の齋藤忠夫氏が、座長代理には法政大学経済学部教授の黒川和美氏が任命され、通信事業者の代表者や有識者が集まって議論を交わした。
番号ポータビリティとは、携帯電話の利用者が契約する通信事業者を変更する際に、これまでと同じ番号を引き続き使えるようにする制度。海外ではシンガポールで1997年4月に導入されたのを皮切りに、欧州やアジアの一部で広く採用されている。米国でも2003年11月24日に導入される見込みで、2004年には韓国でも始まる予定となっている。
総務省は2002年6月より通信事業者や端末メーカーによる勉強会を開催し、技術的に実現可能な方式のあり方や、システム導入費用の試算といった技術的調査を行った。その結果、導入に必要な交換機ソフトの改修や加入者データベースの構築、サーバ設置等のために1000億〜1500億円程度の費用がかかるとの試算が出された。これは仮に携帯電話加入者全員で負担すると1人あたり2000円の負担が必要となる計算だ。この調査をもとに、利用者のニーズを踏まえながら導入の在り方を検討するのが今回の研究会の目的となっている。
番号ポータビリティを導入するメリットとデメリットとは?
携帯電話の番号ポータビリティの在り方について議論を交わす参加者たち | |
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番号ポータビリティの導入にはメリットとデメリットがある。利用者の利便性が高まり、事業者間の競争が促進されるというメリットがある一方で、多大な導入コストを一般の利用者が負担しなくてはならない可能性がある。また、端末の買い換え需要が増大することで事業者が端末の小売業者に払うインセンティブが増加し、事業者の経営を圧迫しかねない。
総務省が行った利用意向に関するアンケート調査を見ると、手数料を負担しても番号ポータビリティを利用したいと答えた人は全体の28.8%、手数料の額によると答えた人が49.1%に上るといい、約80%が何らかの関心を持っていることが分かる。ただし払ってもよい手数料の額は1000円以下と答えた人が過半数を占めており、試算された導入コストとは大きな隔たりがある。
日本特有の事情を勘案する必要も
海外の状況を見ると、番号ポータビリティを利用する人は全体の1〜3%程度がほとんどだという。ただし欧州などでは契約通信事業者に関係なく、電話番号などの情報が入ったSIMカードを携帯端末に差しこんで利用する方式が一般的で、端末を利用者が自由に選べるといった点で日本とは多少事情が異なる。利用手数料は国ごとに差があり、英国では4000円、ドイツでは3000円、フランスでは2000円、香港やオーストラリアでは600円となっている。
研究会では番号ポータビリティが導入された場合の影響について、活発な議論が行われた。アジアネットワーク研究所代表の会津泉氏は「日本では機種変更時の端末の価格が高く、安い値段で端末を買うために番号が変わっても新規購入する場合がある」と指摘し、番号ポータビリティの導入によって事業者のインセンティブの仕組みが変わる可能性があると語る。
また、インボイス代表取締役社長の木村育生氏は、「今、番号が変わっても構わないから通信事業者を変えたいという人のニーズとしては、単純に電話番号を変えたい、新しい端末を安く買いたい、電波がつながりやすい事業者に変えたいといったものがあるが、最終的な要求は通話料を下げたいということだろう。番号ポータビリティが導入されることで、現時点では予想もできないような新たなサービスが生まれるはずだ」と指摘する。
番号ポータビリティの導入が事業者間の価格競争をもたらす?
さらに木村氏は固定電話の事業者を利用者が指定するマイラインのサービスを例に挙げ、「マイラインの利用には800円かかるが、実際は事業者が負担していた。携帯電話でもシェアをひっくり返すことを考えれば、1人当たり2000円程度の負担は事業者にとって大した問題ではないだろう」と話し、導入コストは事業者が負担するのではないかという見解を示した。ただしマイライン導入時に事業者間の価格競争が激化したことに触れ、「通信事業者の経営計画を尊重して考えていかなくてはいけない」と慎重な議論が必要とも語った。
研究会ではそのほか、番号ポータビリティを導入した後のランニングコストをどこに転換するのか、電話番号だけでなく、メールアドレスのポータビリティをどうするかといった問題も検討する必要があるとの意見も出された。
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