世界標準のIDシステム導入に向けて、現状はどうなっているのか。それを探るべく、米マサチューセッツ工科大学内に設けられたAuto-ID Center主催のセミナーが27日都内にて開催された。Auto-ID Centerの日本における拠点は、今年4月に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス内に設立されたばかり。同大学教授で、Auto-ID Center Japan Laboratoryの所長を務める村井純氏が同セミナーにて講演を行った。
Auto-ID Centerは、製品にRFIDをつけ様々なアプリケーションで利用するための研究開発を行う機関として、1999年10月にProcter & GambleやGillette、Wal-Martなどが中心となって設立された。同センターにはTechnology BoardとBoard of Overseerという2つの委員会が存在し、Technology BoardはAuto-ID Centerが開発するシステムに向けたソフトウェアやハードウェアを製造する企業メンバーで構成されており、Board of Overseerは食品、小売、流通などの業界メンバーで構成されている。前者は技術的要件の策定など、技術専門化としての提言を行い、後者はAuto-ID Centerの技術を実際のビジネス環境に反映させるという役目を担っている。
慶應義塾大学教授およびAuto-ID Center日本拠点で所長を務める村井純氏 | |
米・英・オーストラリアに次ぐ4番目の拠点として設立された日本拠点は、アジア初の拠点として研究開発および普及啓蒙活動を行うとともに、日本独自の課題である周波数の制度や社会システムとして日本の物流方式にいかにAuto-IDを導入するかといったことを中心に研究を行っている。体制としては、慶應義塾大学教授の國領二郎教授が担当しているビジネス・社会モデルの開発を行う部門や、NTTの葉原敬士氏が担当する技術標準化に取り組む部門、大日本印刷の石川俊治氏が担当するインダストリアルプランニング部門、IIJ技術研究所の宇夫陽次朗氏が担当する研究開発部門などに加えて、外部からAuto-ID Centerの活動について意見してもらうための顧問会議も設立している。顧問会議のメンバーの中には、東京大学教授で別団体にてRFIDの普及に努めている坂村健氏も名前を連ねている。すでにAuto-ID Centerの日本拠点からは、情報空間から見たRFIDの位置付けや、実証実験の進め方についてのホワイトペーパーが公開される予定だ。
日本では、世界で初めてAuto-ID準拠のRFIDタグを搭載した絵本を流通させる実証実験がすでに行われている。村井氏の著書でもあるこの「インターネットの不思議、探検隊」という絵本を実際に市場に出し、出版・本の流通という過程でRFIDタグをいかに利用できるのかを試しているのだという。村井氏によると実証実験で浮き彫りになった点は、RFIDがついたままの本を消費者が持ち歩くことでプライバシー問題に発展する恐れがあるということだ。「社会において、電波とのつきあいはまだ浅いのが現状だ。電波に関する認識度をいかに上げていくかということも課題だろう」と村井氏。
村井氏は、Auto-IDがモノの識別や盗難防止といった分野での応用から、流通管理、偽造防止などにも利用され、さらには一般家庭内にまで普及していくことで、ユビキタスコンピューティング社会に役立つものだとしている。空間全体を使って通信できる環境という意味では、「ワイヤレス通信環境が整っていることもあり、日本はかなり有利な立場にある」と村井氏は指摘、日本にAuto-IDセンターの拠点があるのは大変重要な意味があると語った。
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