一時過熱していたキュレーション・バイラルメディア競争は沈静化し、優位に立つプレーヤーは“コンテンツの品質”を高めるステージに入った。一方で、FacebookやYouTubeなどの各プラットフォームに合わせて独自の動画コンテンツなどを制作、配信する「分散型メディア」が増加。新興メディアの登場に加え、競争に敗れたキュレーション・バイラルメディアが動画制作能力を高めて分散型にシフトしようとしている――。
3月3、4日に開かれた招待制イベント「B Dash Camp 2016 Spring in Fukuoka」で、スマートフォンメディアの現状を一望し、今後のグロースとマネタイズの可能性について議論するセッションがあった。本稿では、キュレーションメディアと分散型メディアについて語られた内容をお伝えする。
登壇者は、サイバーエージェントの常務取締役である小池政秀氏、分散型メディアで先行するエブリーの代表取締役である吉田大成氏、グーグルの出版コンテンツ アジア太平洋 統括部長である佐藤陽一氏の3人。佐藤氏は、スマートフォンで閲覧するモバイルサイトの表示速度を高速化するオープンソースプロジェクト「Accelerated Mobile Pages(AMP)」を推進している。
モデレーターは、ユナイテッドの取締役で、メルカリの社外取締役を兼務する手嶋浩己氏が務めた。
キュレーション・バイラルメディア市場でマネタイズに成功しているメディアの例として、手嶋氏は、ディー・エヌ・エー(DeNA)が手がける女性向けファッションメディア「MERY」を挙げた。同社の2015年度第3四半期の決算説明会資料(13ページ)を見ると、10~12月期の“キュレーションプラットフォーム事業”の売上収益は約5億円だとわかる。
同事業には、住まい・インテリア情報メディア「iemo」、旅行メディア「Find Travel」なども含まれるが、手嶋氏は「おそらくこの(売上収益の)大半がMERY」だと指摘。さらに「年末年始にアプリのプロモーションを打っているため、1~3月はもっと伸ばしてくる。勝手な見込みでいうと、最大10億円弱くらい。低くても7~8億円くらいにまでは伸ばしてくると思う」と予測する。
「サイバーエージェントの『Spotlight』や『by.S』も、相当な規模になっていると聞く。ヤフーの子会社が運営する『TRILL』も、MERYと同規模ではないかと言われている。キュレーションメディアを持っているだけでは、もう厳しい状況になってきている」(同氏)。
そのほか、ニッポン放送が2月、バイラルメディア「grape」を運営するグレイプを買収した例もある。
Spotlightなどを運営する小池氏は、「一時期よりは競争環境はゆるくなってきている」と現状を説明。Facebookで「いいね!」を獲得するための出稿や記事本数の競争は落ち着いているという。「ネットで記事を読んでいただくことや、情報を届けるテクニックに関しては、キュレーションメディアは大きく貢献したと思う」とこれまでを振り返った。
小池氏によれば、Spotlightはソーシャル経由で2000万件のリーチがあるが、それ以上の規模に広げるためには、これまでの方針を転換する必要があるという。「リーチの規模を3000万~4000万件にしようとしても、少し伸びづらい。“規模の合戦”はもうやめて、メディアの中身を変えていくステージに移っている」とし、今後の課題は、ブランドを本質的に育てるために(広告メニューを含む)独自記事の品質を高めることだと説明した。
エブリーが運営するメディアの1つ「DELISH KITCHEN」は、料理の手順やレシピを紹介する動画を自社で撮影、編集して外部プラットフォームに配信している。特にFacebookが好調で、「いいね!」は60万件を超えている。吉田氏によれば、Facebookの月間の動画再生ユーザー数は毎月400万~500万件で、月間UU数は約950万件だという。
エブリーは自社メディアを持っていない。その理由として吉田氏は、自社メディアを持つことでその数字も意識しなければならなくなることや、大半のユーザーが2~3個のアプリ(プラットフォーム)しか使っていないような状況で、何よりもリーチを得ることに注力すべきだと判断したことを挙げた。
「『動画を見る』『記事を読む』以外の要素がない限りは、自社メディアをもつ必要性はない。それができなければ、他社のプラットフォームに依存していってもよいと思っている」(吉田氏)。
“Facebookで流れてくる料理動画”という位置づけで、どのように差別化、囲い込み、ブランド作りをするのか。吉田氏は、「他メディアがあまり取り組んでいないこと」に注力していると明かす。具体的には、ユーザーとコミュニケーションをとる頻度を増やすことと、ハッシュタグを使ってコミュニティを作り、ユーザー間に“ゆるいつながり”を持たせていることだ。
吉田氏によれば、動画の投稿に対して1日に数百~数千件のコメントがつくが、その全てに返信しているという。
動画で紹介した料理をつくり、その写真を撮ってInstagramに投稿するユーザーも多いそうだ。「ハッシュタグを用意して、ユーザー同士で『いいね!』をし合えるような、ゆるいつながりを持たせている。また、『ここの作り方がわからない』などの質問があると、ユーザー同士で解決してくれることがある。それが強みになればいいと思っている」(吉田氏)。
現在はタイアップ広告でマネタイズを図っているが、今後の可能性としてプラットフォームから得られる収益や、テレビ番組のようにスポンサーが付くことも期待しているという。
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