「NOTTV」が6月に終了へ--マルチメディア放送の始まりと終わり - (page 2)

それ以外の撤退要因は?

 さて、こちらの質問に対するドコモの回答とは別の角度からも「サービス終了の要因」を探ってみたい。まずはコンテンツについて。サービス開始前の予想では、その大部分をCS多チャンネル放送事業者などの「既存キラーコンテンツに頼るのではないか」と見られていた。ところが、実際には6割以上のNOTTVオリジナルコンテンツを用意し、あくまで独自のヒット番組開発にこだわる動きを見せた。

 固定層をつかめば一定の契約数は確保できるが、ある程度進んだ時点で頭打ちになるのは現状の多チャンネル放送が示すとおり。あくまで不特定多数の支持を狙い、頭打ちすることない成長戦略を掲げた点は悪手とはいえないが、残念ながら功を奏することはなかった。

「NOTTV」ではオリジナルコンテンツを多数揃えた

 ドコモの分析をとり入れるならば、「VOD型の優位性が勝った」と指摘される部分で、「何時にNOTTVをつけるとこんな番組をやっている」というチャンネルイメージがほとんど浸透しなかったと言える。プロ野球人気球団の全試合中継くらいの分かりやすいキラーコンテンツは序盤に用意しておくべきだったかもしれない。

 次に受信環境。2014年4月、屋内視聴環境の改善を目指してアンテナケーブルの無料配布を開始しているが、この件が示すとおり、屋内での視聴環境は極めて悪かった。最終的にはユーザーからの申告に基づき約38万件を配布しているが、申告することなく退会を選択したユーザーも相当数いたことが予想される。ちなみに、私もそのうちの1人だ。

 こうしたリアルタイム受信の状況を考慮し、NOTTVでは蓄積型放送(ダウンロード型放送。コンテンツのファイルを端末に送っておき、いつでも再生可能)も併用していたが、放送サービスを理解し、かつ高い興味をもって契約するアクティブユーザーはまだしも、「ドコモ端末契約時に勧められたのでとりあえず契約してみた」というユーザーはまず活用のステップまで進まないだろう。

「NOTTV」の視聴スタイル
「NOTTV」の視聴スタイル

 最後に「スマホの活用状況」について。ドコモの分析をみると、直接的なライバルとして無料・有料を問わず動画配信サービスを挙げているが、スマホ画面の占有という意味では、全く別のライバルが数多く存在していたことを忘れてはならない。

 LINEやTwitter、Facebookに代表されるSNS、また昨今のTVCM出稿では主役的存在にまで躍り出ている各種ゲームなどは、スマホで利用するサービスとして動画視聴よりもはるかに親和性が高い。ユーザー視点から考えても、視覚と聴覚の両方がほぼ必須となる動画視聴という行動自体、思いのほか利用シーンが限定される。この点については、スマホを主戦場の1つに挙げているi-dioにおいても、重々考慮してほしいところだ。

 改めてNOTTVの契約者数推移を見てみると、開始から約4カ月の2012年7月末で10万件突破、2013年1月に50万件、そして同年6月に100万件に到達している。加入件数のピークは2015年3月で約175万件、サービス終了が発表される直前の2015年10月末時点では約147万件となっていた。

 契約の平均継続率や無料期間(31日間)終了後の退会率といったデータが非公開となっているため、上記した「終了要因の予測」を数値から裏付けるのは困難だが、BS/CSの人気6チャンネルを加えた8チャンネルによる「NOTTVパック」を開始した2015年4月以降に右肩下がりとなってしまったことは、事業者の立場からして「もはや、打つ手なし」との判断を加速させる要因になったと言えるかもしれない。

 まとめると、ドコモが挙げた「環境面の変化に伴う要因」のほか、コンテンツ面、受信環境面などにおいてライトユーザー層の取り込みに失敗したことも響いたものと考えられる。同じくドコモが主導する動画配信サービス「dTV」が動画配信利用のライトユーザー層をうまく取り込んで500万件近い加入者を獲得していることと比較すると、マルチキャリア対応やiPhone対応といった環境面の違いを考慮しても歴然とした差を感じた。

「dTV」
「dTV」

 サービス終了発表後、NTTドコモでは「NOTTVご契約者様向けキャンペーン」を開始。dTV、dマガジン、dヒッツ(300・500)、dアニメストアのいずれか1つの契約者に対し、最大3カ月間、500円相当のdポイントによる携帯電話利用料金への充当および新料金プランの1GBボーナスパケットを特典として用意した。キャリア直轄、かつNTTドコモ単独サービスの強みを生かした有効な特典と言えるだろう。惜しむらくは、これが普及拡大を狙ったものではなく、実質的な「閉店セール」であることだろうか。

 ともあれ、2016年にNOTTVは終了し、i-dioはスタートする。スタートする側にとっても順風とは言えない状況だが、決してノーチャンスというわけでもない。スマホで放送サービスを成功させることの難しさを認識しつつ、車載型端末から活路を見出していくことは十分に可能と考えられるためだ。2016年が、マルチメディア放送に新たな歴史が加わる1年になることを期待する。

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