2014年の展望

2014年に注目すべきサービスはこれだ--ベンチャーキャピタル編

岩本有平 (編集部) 平野武士2014年01月03日 17時30分

 スタートアップへの注目がさらに増す2014年。投資家たちはどのようにトレンドを分析しているのか。

 前編に引き続き、国内インキュベーター、キャピタリストからのアンケートをもとに、2013年の振り返り、2014年の注目サービスを考えていきたい。後編は、アーリーステージ以降の投資を手掛けるベンチャーキャピタルの回答を中心に紹介する(紹介は五十音順)。

 質問は次の2つ。「質問1」は「2013年の企業支援、投資環境を振り返ってポイントとなる『キーワード』と、その理由」。「質問2」は「2014年を占う上で重要なサービスを(1)国内(2)海外で1つずつ」とした。なお、回答として挙げるサービスについては、自社の投資先であるかどうかは問わないとしている。

伊藤忠テクノロジーベンチャーズ パートナー 河野純一郎氏

質問1:キーワードは「調達金額の大規模化」です。2012年までは1億円を超える調達が“大型ファイナンス”とニュースになることも多かったですが、2013年は3億〜5億円、案件によっては10億円を超える資金調達も珍しくないという状況となりました。

 調達金額の多寡で優劣を競ったり、一喜一憂したりするのは論外ですが、調達金額の絶対額が増える事で、戦略的な打ち手が増えたり、大胆な挑戦に踏み切れたり、優秀な人材の採用が可能となったりと、日本のスタートアップシーンがより一つ上のステージに上がる”兆し“なのではないでしょうか。

 しかし、集めた資金は“集める事”自体が重要なのではなく、それを有効的に活用し、価値を創造してこそ意味のあるものとなります。投資した資金、集めた資金を起業家とともに”生き金”に換えていく。2014年は色々な意味で「真価が問われる」1年になると考えています。

質問2:(1)国内は「XICA」です。企業が保有するデータ量は加速度的に増加していますが、分析能力の主力であるデータサイエンティストの絶対数も不足、現存する統計分析ツールもプロユースのみと、人や組織の分析能力はデータ量に追いついていないのが現状です。

 そのような課題に対し、XICAらは「誰もが分析者となれるツール」を提供する事で解決しようと試みています。計算や分析等の機械やITの方が人間よりも得意な領域はあえてそれらに任せる事で、人間には人間にしか出来ない仕事に集中させていく。このような「人間の生産性を上げる」というテーマには注目しています。

 海外は「TransferWise」です。「海外送金」にフォーカスしたイギリスのスタートアップで、Skype創業時のメンバーらが立ち上げた事から、「海外送金版Skype」とも呼ばれている企業です。

 定常的に発生する海外送金に関わる「高い手数料」「内訳の不透明さ」という課題点に着目し、「海外送金手数料を大幅に削減する」というサービスを展開。Paypal共同創業者のPeter Thiel、Max Levchinらが投資している事でも有名です。2013年は日本でも決済系やマネー系のサービスが注目を集めました。私自身も既存の金融サービスには不満、不便を感じる事が多々ありますし、「ITの利活用による産業の高次化」という観点からも、引き続き金融系ITサービスには注目していきたいと思っています。

インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナー 小林雅氏

質問1:2013年は2012年年末の政権交代を経て「アベノミクス」の影響によって新規産業の創造や「イノベーション」といったことが特に注目された1年だったと思います。2013年4月に開催された新経済サミットに安倍首相自ら足を運ぶなど積極性が目立ちました。

 「アベノミクス」の結果、株式市場の回復し、IPOマーケットも復調しました。ベンチャー投資活動においてコイニーやクラウドワークスなどの大型の資金調達があり、ここ5年においてはもっとも活発だったのではないでしょうか。

質問2:国内と海外で弊社の投資先で注目企業を紹介したいと思います。

 2013年にデビューしたサービスとしては投資先のクラウド会計ソフト「freee」の成長は目覚ましいです。2013年5月に行われたIVSのLaunch Padで優勝した時点においては登録企業数は3000社程度でしたが、2013年末には2万5000社です。日本ではソーシャルゲームを中心に盛り上がってきたベンチャー市場でしたが、freeeの事例を見ると今後企業におけるクラウドサービスの利用がさらに増加し、大きな市場になるのではないかと期待しています。

 海外では台湾を拠点としてグローバルで1000万ダウンロードを達成したYouTubeのミュージックビデオプレーヤー「Mixerbox」が注目です。台湾で6名という小人数のメンバーではありますが、広告費をかけずに1年足らずで1000万ダウンロードを達成しました。これはLINEなどもそうですが、プロダクトが良ければスマホでは今までは考えられないほどのスピードで世界に広がっていきます。日本のミュージックカテゴリーでも上位に入っています。

 freeeもMixeerboxは既存のプレーヤーをDistrupt(破壊)するビジネスモデルです。会計ソフトは弥生会計のような旧態然としたパッケージソフト市場がまだ中心であるし、音楽サービスはダウンロード型で販売するとか、定額サービスといったところが中心です。Mixerboxは無料で聴き放題。LTEの世界になるYoutubeを連続再生しても新幹線でも快適聞くことができます。

 このようなサービスが成長することはとてもワクワクしますし、2014年もこのようなサービスを支援していきたいと考えています。

NTTドコモ・ベンチャーズ シニアディレクター 安元淳氏

質問1:「多くの大企業がスタートアップとの連携の必要性を本格的に認識し始めた年」となったのではないでしょうか。フジ・スタートアップ・ベンチャーズ、TBSイノベーション・パートナーズのようにメディア企業を中心にしたコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が設立されました。NTTドコモとしても、NTTドコモ・ベンチャーズを2013年2月より発足。ファンドオペレーションに加え、インキュベーションプログラムも「ドコモ・イノベーションビレッジ」という形で開始しました。

 大企業とスタートアップが相互補完できる部分として、大企業に欠けているものとして良く言われるのはスピード、柔軟なアイデア、サービスがあり、一方でスタートアップに欠けているのは資金、販売力、ネームバリューなどが挙げられます。

 実際に双方がwin-winとなるケースはまだまだ少ないですが、継続的にチャレンジすること、そして連携できる部分からステップ論でアプローチを試みることが重要だと感じています。NTTドコモ、NTTグループ各社とスタートアップとの連携、協業を積極的に進めていく上でのカタリストとしての役割も担っていきたいです。

質問2: サービスではなく領域で挙げさせていただくと、国内は「C2C×コマース(オークション)」です。その中でも「Fril」は実に堅調な成長を遂げていると感じます。スマートフォンの台頭によって従来よりも格段にユーザー体験の向上が可能になった事も成長する上での要因になっていると思いますが、amazonや楽天のように既に購入するものが 決まっているユーザを対象にしているのではなく、自分と同じ価値観やセンスを感じることができる仕組みを通じて購買需要を喚起するという、C2Cならではのサービスは今後も十分に成長の兆しがあると感じます。

 ある程度ターゲットを明確にした上でのサービス設計となる為、ニッチになりがちですが他のセグメントもしくはカテゴリにも水平展開可能な汎用モデルと成り得るサービスであると期待しています。

海外は「M2Mクラウドプラットフォーム」です。この領域では既に「Axeda」というスタートアップが、主に大企業向けに簡単にM2Mシステムを構築できる基盤とアプリケーションサービスを医療機関、輸送機関、その他の広範な企業に対して提供しておりここ数年で急速に成長を遂げています。

 M2Mの領域は2020年に1500億ドルの市場規模になると言われており、その規模は今の全世界のモバイル市場の約3分の1ぐらいの規模に匹敵する程です。M2Mの先にはInternet of Things(以下、IoT)/Big Dataの世界が待ち受けており、収集された膨大な情報を元に新しい情報サービスを提供する可能性も生まれてきます。

 2013年の「the Economist」誌の調査によれば、欧米でのIoT分野での投資は増加傾向にあるとも言われておりますので、こうしたIoTの分野は起業の機会であるとともに、今後大企業とスタートアップが連携する領域としても非常に興味深いところであると考えております。

KLab Ventures 代表取締役社長 長野泰和氏

質問1:キーワードは「スタートアップの大型ファイナンス」です。2013年を振り返ると創業間もないスタートアップが大型ファイナンスを成功させる事例が多かったと思います。

 売上実績も利益もまだこれからというスタートアップがこういったファイナンスをすることが多かったのも特筆すべきものであり、これまでのVCの投資判断と比べアグレッシブになっている印象があります。

 CVCを中心としてリクスマネーの供給元が多様化していることがこの要因になっていると考えられますが、Valuationも含めて従来以上のリスクをとって投資実行している案件も多いため、今後のベンチャー投資トレンドを加速させるためにも大きく成功することが期待されていると思います。

質問2:国内は「SmartNews」です。使い古された言葉ではありますが、「スマホファースト」の重要性やインパクトを改めて教えてもらったサービスでした。

 KLab Venturesで主催したUI/UXに関してのカンファレンスでもゴクロの浜本社長にはご登壇頂いたんですが、スマホに最適化されたUI/UXについて非常に研究していたのが印象に残っています。極端ですが、コンシューマーサービスではスマホベースのサービス以外は投資検討しなくてもいいのではないかと思うくらいのインパクトがありました。

 海外は「Coin」です。単純に1年通じて最も「おっ、その発想があったか!」と思わされたサービスです。

 開始40分でpre-orderの目標5万ドルを達成したことでも話題になったこのサービスは、所持しているクレジットカードをCoinデバイスで自らスキミングし、一元管理できるというサービスです。

 Kickstarterでも急増しているリーンハードウェアのトレンドは今後加速することが予想されますし、国内でも「Ring」や「PlugAir」などのサービスが出てきています。Coinは2014年の夏頃発売予定ということで、このトレンドにおける代表サービスになるのではないかと楽しみにしています。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]