経営再建は1合目にも到達していない--シャープ 奥田社長

 シャープが発表した2012年度第3四半期(2012年10月〜12月)の連結業績は、5四半期ぶりの営業黒字化を達成する内容となった。

 第3四半期累計の売上高は前年同期比6.4%減の1兆7824億円、営業損失はマイナス1662億円の赤字、経常損失はマイナス1991億円の赤字、当期純損失はマイナス4243億円の赤字となったが、第3四半期単独の売上高は前年同期比15.1%増の6782億円、営業利益は270億円改善の26億円の黒字、経常損失は219億円改善したもののマイナス18億円の赤字、当期純損失は1369億円改善し、マイナス367億円の赤字となった。

シャープの奥田隆司社長
シャープの奥田隆司社長

 シャープの奥田隆司社長は「第3四半期単独では順調に売上高を回復し、営業利益は5四半期ぶりの黒字化となり、それぞれの項目において前年同期に比べて大幅な改善を達成できた。2012年度第1四半期をボトムとして、2011年度前半レベルにまで回復してきた。今回の第3四半期の実績は、社内の計画を上回る実績になっている」と総括した。

 第3四半期単独の部門別の業績は、エレクトロニクス機器の売上高は14.6%減の3469億円、営業利益が96.2%増の191億円。エレクトロニクス機器のうち、AV・通信機器の売上高は25.1%減の2023億円、営業利益は92億円改善の53億円。「AV・通信は、第2四半期の赤字から黒字に転換した。液晶テレビ事業が黒字転換し、IGZOを搭載したスマートフォンが好調な販売となり、収益改善に大きく貢献した」という。

 液晶テレビの販売台数は、30.5%減の223万台。第3四半期までの累計では613万台を出荷。年間800万台の目標達成を射程距離に捉えている。

 「60型以上の大型液晶テレビにフォーカスしたことで価格が安定して推移。社内の想定を上回る実績になっている。国内市場では金額・台数ともに伸長し、40%以上のシェアを獲得した。引き続き60型以上のラインアップの拡充、新興国における販売強化、4Kモデルの投入により、売り上げ拡大を図りたい」という。

 健康・環境機器の売上高は2.9%増の748億円、営業利益は9.0%減の74億円。情報機器は9.8%増の697億円、営業利益は15.6%増の63億円となった。

 「商品部門となるエレクトロニクス部門はすべてが黒字転換した」(奥田社長)

 一方、電子部品の売上高は前年同期比40.3%増の3956億円、営業損失は144億円改善したもののマイナス104億円の赤字。電子部品のうち、液晶は売上高が49.1%増の2582億円、営業損失が91億円改善したもののマイナス117億円の赤字。太陽電池は売上高が14.4%増の559億円、営業損失は43億円改善したがマイナス19億円の赤字。その他電子デバイスの売上高は36.1%増の814億円、営業利益は45.5%増の31億円となった。

 「液晶と太陽電池の赤字幅が縮小。その他電子デバイスも好調となった」という。

 構造改革効果については、液晶、その他電子デバイス部門での改善が全社収益改善に貢献。第2四半期から第3四半期での増減で、人員削減などによる固定費削減効果で81億円、棚卸資産評価減の実施効果や固定資産の除却、減損などによる償却費減少による資産削減効果で494億円の効果があったという。同社が12月に実施した2960人の希望退職制度に関連する費用として253億円を、特別損益の事業構造改革費用のなかに計上している。

 なお、経営改善対策に関する第3四半期累計での実績は、大型液晶事業のオンバランス化で1100億円、クアルコムからの出資による第三者割当増資で49億円、在庫の適正化・固定資産の圧縮で1148億円、設備投資の圧縮で647億円となっており、合計で2944億円。4000億円の年間目標の4000億円に対する進捗は74%となっている。

  • 部門別営業利益

  • 経営改善対策の進捗

  • 通期の連結業績予想

モバイル液晶の減収見込み、iPhoneが影響か

 奥田社長は、「第3四半期は社内計画に対して順調な伸長になった」とするものの、「依然として厳しい収益状況、財務状況にあることになんら変わりはない」とする。

 そうした言葉を裏付けるように、2012年度通期の業績見通しは10月公表値を据え置いたが、その中身をみると気になる要素もある。

 というのも、奥田社長によると、モバイル端末用の中小型液晶の受注は1月〜3月には想定を下回る見込みであり、液晶は10月公表値に比べて500億円の減収、120億円の減益を見込んだ。シャープはその理由を明確にはしないが、AppleのiPhone向けであることは容易に想像できる。

 これは同部門の年間売り上げ見通しの5%以上を下方修正するという影響力だ。

 その減少分を構造改革の成果が出始めたAV・通信や、国内での需要が回復しはじめた太陽電池でカバーするという構図になる。

 また、第三者割当増資については鴻海グループからの出資が暗礁に乗り上げているが、奥田社長は「実務レベルでの話し合いは継続している。3月27日のリミットまであと2カ月もの時間がある。可能な限りの話し合いをすすめ、協議は継続する」と語る。

 だが、これも10カ月間に渡り成果が出ていないこと、台湾政府からの横槍が入ったことでの協議の遅れなどもあり、進捗状況は決して良くないといえる。

 奥田社長が「経営再建に向けては、まだ1合目まで到達していない」と語るのは、まさに本音だろう。

 だが、その一方で円安という追い風要因も出てきている。

 「デフレからの脱却や金融政策、財政政策、成長戦略に向けた施策は、製造業にとって心強いものである。なによりも為替が円安に振れていることは元気が出る。新政権の手立てには感謝したい。呼応する形でやっていきたい」とする。

 同社では現在、新たな中期経営計画を策定中だ。「グローバル展開するコモディティに近い製品、グローバルに展開しているが付加価値の高い製品、リージョナルに付加価値が高い製品がある。こうしたことを踏まえながら、コモディティから、付加価値にシフトするような商品戦略、地域戦略を描きたい」と語る。

 「手を緩めることなく構造改革のスピードアップを図りながら、今年度下期に営業黒字を実現させ、シャープの再生と成長に向け、2013年度の当期純利益の黒字化必達に向け邁進していく」と奥田社長。

 シャープには、明るい兆しがわずかながら見え始めたのかもしれない。その兆しを掴みとることができるのか。第4四半期から来年度への展開に加え、来年度からスタートする中期経営計画の内容が注目されることになる。

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