文化庁の著作権分科会法制問題小委員会の2010年度4回目となる会合が4月22日に開催された。
著作物の写り込みや研究・開発、教育目的でのプログラムの複製など、偶発的・不可避な著作物の再利用を合法的に認める「権利制限の一般規定」の導入について、2009年度から議論を続けている同小委。2010年度からは同制度の導入を前提に、これまでの検討内容を踏まえ、課題や問題点を整理した中間報告書の策定に向けて精査を続けている。政府が5月に決定する「知的財産推進計画2010」を前に、一般規定の導入に向けた方向性を打ち出すことが求められている同小委では、素案をもとに前回までに議論した内容を反映させた報告書案を事務局側が新たに提示した。
今回の会合では、おもにコンピュータプログラムの取り扱いをめぐって議論が活発化した。特に、報告書案でプログラムのソースコードを解析する“リバースエンジニアリング”にともなう複製行為や形式変換について、「一般規定による権利制限の対象と位置づけるか否かが問題となる」という記述に対し、委員の間からは多くの意見や疑問点の指摘が行われた。
一般規定に該当する利用行為について、報告書案では、著作権者の利益を不当に害しないことを基本的な要件にした“形式的侵害”を3つの類型に分類(分類の詳細は第2回会合の記事を参照)。このうちC類型とされた「著作物の表現を知覚するための利用とは評価されない利用(当該著作物の本来の利用とは評価されない場合の利用)」は、おもに映画や音楽の再生技術などの開発や技術検証のための素材として複製物を利用することを想定しており、コンピュータープログラムについてもこれに含まれるとしていた。しかし、この見解に対し、中間報告書の素案の議論を行っていた前回までの会合で、リバースエンジニアリングの取り扱いをどうするかという指摘がなされた。
これを受け、今回提示された報告書案では、「リバースエンジニアリングにともなう複製行為や形式変換については、C類型から除外すべき」とする方針が示された。これに対し、一橋大学大学院教授の村上政博氏が「リバースエンジニアリングについては個別規定による司法の判断に委ねられる可能性があるという解釈でいいのか」と質問したほか、「リバースエンジニアリングをなぜ除かないといけないのか」(明治大学特任教授、東京大学名誉教授、弁護士の中山信弘氏)、「リバースエンジニアリングと一般規定の両方を網羅する条文にするという考えはないのか」(弁護士の松田政行氏)など委員からの異論が続いた。
一方、C類型を定義する条文に用いられた“知覚”という表現の適切性についても複数の委員から異議が唱えられた。東京大学大学院教授の大渕哲也氏は、「見る、聞く、読むなどといった著作物の表現的側面を知覚する目的には何ら向けておらず、権利者に不利益を及ぼすものではないと考えられる利用」を明確に示す意図で“知覚”という言葉を用いたと前回までの会合で説明していたが、「“知覚”という表現は必要なのか。知覚でも享受でもない場合はどうなるのか」(弁護士の山本隆司氏)、「“知覚”をせずに(著作物の鑑賞価値を)“享受”するということはほかにあり得るのか」(主査で日本大学大学院教授の土肥一史氏)といった意見が続いた。
同小委では、中間報告書案を今回の議論の内容をもとに修正したものを委員に再度提示し合意を得た上で、文化庁の上位審議会である著作権分科会で報告を行う方針。
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