著作物の写り込みや研究・開発、教育目的でのプログラムの複製など、偶発的・不可避な著作物の再利用を合法的に認める「権利制限の一般規定」の導入を検討している、文化庁著作権分科会の法制問題小委員会が中間報告書の作成に着手している。3月30日に開催された同委員会の第3回会合で、報告書の素案が大筋まとまった。
同小委員会では、3月17日に開催された会合で事務局が中間報告書の素案を提示している。今回の会合では、前回未定稿となっていた権利制限の一般規定に関する諸外国の状況に関する項目が追記されたかたちで、素案が再度提出された。
会合では、前回に引き続き、同小委下に設置されたワーキングチーム(WT)が整理した、“形式的権利侵害行為”の類型について議論。既存の個別権利制限規定の適用は受けないものの、利用の様態から権利者に特段の不利益を与えないながらも著作物の利用行為にあたる2つの類型を中心に意見交換が行われた。
素案に記された、2つの利用類型のうちのひとつ目は、「適法な著作物の利用を達成する過程において不可避的に生ずる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が質的または量的に社会通念上軽微であると評価できるもの」(類型B)。具体的には、許諾を受けたCDを制作する際のマスターテープや、教科書作成過程の複製行為などがこれに該当する。
同類型について、委員からは、「個別規定の解釈の範囲内でいいのではないか」「規定を改めて設ける必要はあるのか」「政令で個別に規定すべきではないか」といった意見が続出。これに対し、WTの座長を務めた、東京大学大学院法学政治学研究科教授の大渕哲也氏は「その都度政令で定めなければならない点にこそ問題がある」と述べ、一般規定導入に至った議論の根本を問い正した。
そのほか、「社会通念上軽微であると評価できるもの」とした規定の表現について「検索エンジンの場合は決して軽微ではない。軽微か否かは必ずしもフェアユースの要件にはならないのではないか」といった指摘がなされた。
一方、ふたつ目の類型は、「著作物の表現を近くするための利用とは評価されない利用(当該著作物としての本来の利用とは評価されない利用)」(類型C)。これは、映画や音楽の再生技術の開発や技術検証のための素材として複製物を利用する行為など、本来目的とする視聴行為として評価されない場合が該当するとしている。
この類型についての議論では、明治大学教授・東京大学名誉教授・弁護士の中山信弘氏が「この場合の利用目的は鑑賞を満たすか否かで“知覚”という表現はちょっと違うのではないか」と指摘するなど、文言の表現についての意見が相次いだ。これについて大渕氏は「この項目についてはもはや心としては共通しているが、書き表すのが難しいというところに来ている」と述べ、表現方法を修正しつつ報告書を整理していくことで理解を求めた。
また前年度の会合では、現行の著作権法では個別権利制限規定が設けられていない“パロディー”の利用についても、今後の検討事項として挙げられた。パロディーの取り扱いについては、今後別枠を設けて議論する方針を中間報告書に盛り込むことで意見が一致した。
今回の会合を受け、文化庁では今後、追加の意見も含めて素案を修正する方針。以降、中間報告書案として次回会合で提出し、委員間での合意を目指す。
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