文化庁の著作権分科会の法制問題小委員会の2009年度第7回目の会合が1月20日、開催された。
いわゆる“日本版フェアユース”と称される、著作権の権利制限の一般規定の導入についておもに議論を続けている本小委。2009年9月18日に開かれた前回の会合では、同制度の導入をめぐる検討事項が多岐にわたることから、新たに専門のワーキングチーム(WT)「権利制限の一般規定ワーキングチーム」を発足させ、集中的に審議を進めることが決められていた。今回の会合では、以降8回の会合を経た同WTがまとめた報告書を提出し、その内容を説明した。
今回公表された報告書では、一般規定の導入に対する是非について、「小委員会における関係者のヒアリング結果を分析したところ、利用者側と権利者側とで意見の隔たりが大きい」と指摘。さらに、「立法的対応が必要であると判断するためには、導入を根拠付ける立法事実があるのかという点につき十分検討すべき」として明確な結論は示されず、以下はWTで整理された論点とそれに対する意見を中心にまとめられた。
一方、一般規定を導入すると仮定した場合に考えられる利用行為を5つの類型に分類。写真や映像の撮影に伴う“写り込み”など、その著作物の利用を主たる目的としないほかの行為に付随的に生ずる行為(形式的権利侵害)や、権利者に許諾を得た楽曲をCDに録音する際にマスターテープなどへの複製など、適法な著作物の利用に不可避的に生じる利用、技術検証のための複製など著作物の表現を知覚(見る、聞く、読むなど)するための利用とは評価されない利用の3つのケースについては、それぞれ一般規定による権利制限の対象とすべしとの意見が多数を占めたことが報告されている。
これに対し、パロディーとしての利用については「概念としての解釈や表現の自由、同一性保持権との関係等を慎重に検討する必要がある」とした上で、障害者福祉や教育、研究、資料保存といった公益性目的の利用については「既存の個別規定の関係を慎重に考慮しなければならない」として、それぞれ必要に応じて個別規定の創設や改正により対応すべきだとの意見が大勢だったとことを報告している。
そのほか、番組録画転送サービスについては、「間接侵害の問題において議論されるべきものであり、一般規定により解決が図られるものではない」との意見で一致したと記している。
また、前回までの小委員会では、一般規定の導入推進派の委員からは「現在の個別規定では柔軟性がなく、改正には時間がかかり新技術への対応に遅れる」と主張していた。これに対し報告書では「裁判実務においては、個別規定の解釈上の工夫や民法の一般規定の活用により、事案に応じた妥当な解決が図られており、個別規定が厳格解釈されているとは評価できない」「個別規定の改正に要する審議期間とおもな裁判例の最高裁判決までの審理期間に特段の差はなく、個別規定の改正に時間がかかるとの問題点をもって一般規定の必要性を導くことはできない」との見解を示し、推進派の根拠を退けた。
さらに、一般規定導入により期待される経済効果については「以前に委員から提示された米Computer & Communications Industry Association(CCIA:コンピュータ&コミュニケーション産業協会)の報告書は、フェアユースの概念を個別規定を含むすべての権利制限をもって経済効果に言及している。この報告書をもって一般規定による経済効果の論証はできない」とし、デジタルコンテンツ流通促進については新たな法制度の創設もあり得るとの考えを示した。
今回で今期最後の開催となった同小委員会の会合では、このほか複数者によるネット上の創作活動に関わる課題を検討している「契約・利用ワーキングチーム」と間接侵害について議論している「司法救済ワーキングチーム」からの報告や、1月1日に施行された「著作権法の一部を改正する法律」に伴う政令についての説明がなされた。
今後は、今回提出された報告書をもとに議論を進め、3月をめどに小委員会の中間報告書を策定する予定。以降、新年度に設置される次期小委員会においても審議を継続する方針で、2010年秋をめどに一定の結論を出したい構えだ。
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