人の限界超えるためにこそ技術はある(後編)

佐俣アンリ、文:加藤さこ2008年04月11日 08時00分

国内IT業界の活性化には何が必要か

佐保:みなさんも知っていると思いますが、「国内IT業界は暗い」と指摘され、学生のベンチャー志向も薄れていると言われています。そのことについてどう感じていますか?

画像の説明 渡邊恵太氏:慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 博士課程。人間の知覚や心理を軸に,次世代アプリケーションの研究、2002年頃学会でマッシュアップ的ソフト「メモリウム」を発表し、評価を得る。

渡邊氏:確かに、SEにはなりたくないと思ってしまいますね。40歳になると切られるなんていう話も聞くし。たとえば、javaの技術者になっても30年後に通用するのかというと、先は不安ですからね。

碇氏:職種は違うけど、私はアニメーターになりたいと思っていました。でも、アニメーターもSEと同じで、キツイ仕事なのに安い給料ですよね…。サービスやエンターテインメントコンテンツの基盤を支える人たちがそういう状況なのはおかしいと思うんです。技術者やアニメーターなど必要とされている仕事に就く人が報われるような社会でないといけないはず。

佐俣:世間のイメージは若い人たちがその仕事に就くか否かを判断するための重要なことなのに、良い話はなかなか出てきませんね。これでは、誰も技術者になりたいと思わなくなってしまいます。

画像の説明 佐俣アンリ:慶應義塾大学5年生(座談会当時)。ITを軸に起業家、ベンチャーキャピタルの人と生態系に興味を持つ。本企画では司会を担当。

 この問題は業界全体の課題という側面があり、もっと深い部分の問題かもしれません。ただ、個人の問題として考えたとき、技術が人に近づいてきた分、多くの人がITリテラシーを上げて、人も変わらなきゃいけないと思います。

渡邊氏:それもありますけど、技術者の人がどのようなモチベーションで技術者になるのかということもあるんじゃないかな。

 「プログラミングがやりたい」という人はたくさんいるけど、「できたら何を作るのか?」というところが明確じゃない人が意外と多いんじゃないかな。そこが一番大事なのに。だから、プログラムを書けるようになりたいというよりも、何がやりたいかを決めた方がいいですよ。

 プログラミングを学ぶよりも何がやりたいかを考えることが必要でしょう。それが見つかったときに、プログラミングができるようになるんじゃないかな。やりたいことさえはっきりしていれば、Webからコピペで作っちゃうこともできるんだから(笑)

画像の説明 田尻敏寛氏:京都大学工学部電子工学科卒、同大学情報学研究科の大学院生(座談会当時)。プログラム、デザイン、営業を独学で学び、2006年8月25日に株式会社でんでんを設立。京都の伝統工芸品を中心に、日本の文化を世界に広める学生起業家。ITソリューション、イベント企画なども手がけている。

田尻氏:僕はFLASHの制作を人に頼む余裕がなかったときに自分で覚えましたよ。やりたいことがあれば、できない人でもやるんですよ。

碇氏:何が面白いのか分かる能力も必要ですね。面白いと思う一歩手前の視点、分析力が大事。何が面白いのか、気づきがあればストックが増えるでしょう。それが「作りたい」という気持ちにつながるんだと思う。

佐俣:誰も目を付けなかったものに手を出すと、「変わってる」と言われてしまう日本的な問題もありますよね。言われてもはねのける開き直りも必要と思うんだけど…。

画像の説明 碇氏:電気通信大学4年生。2004年にFLASHムービー「マイアヒ」を制作し、公開1週間で10万PVを越える大ブームを巻き起こした。大学ではヴァーチャルリアリティとヒューマンインターフェースを研究している。

碇氏:自分が面白いと思うものができたから、それを見て欲しいという気持ちは誰もが持っていると思うんですよ。だから、とりあえず引っ込み思案はやめて自分の意見や作品を出してみる。個人的にはリスクは低いんだし、失敗しても平気だと思っていますよ(笑)

渡邊氏:そう、ネット上あるいは人類に「ひとりくらいこんな人間がいてもいいかな」と思えば、気も楽になります。

佐俣:テレビで流行ったものはそれが横並びの価値観や見方で一斉に話題になるけど、ネットはテレビほど波及効果はなくとも、もっと広い範囲でさまざまな価値観や見方がさまざまな形となって話題になる。テレビの一方向のコミュニケーションではなく、ネットは双方向のコミュニケーションができるところがすごくて、いわば人同士の価値観のマッシュアップが醍醐味なんだから、自分をもっと出すというのは大切ですよね。

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