米連邦最高裁、特許の「自明性」を判定する法的基準の緩和を命じる

文:Anne Broache(CNET News.com) 翻訳校正:佐藤卓、長谷睦2007年05月01日 21時21分

 米連邦最高裁判所は米国時間4月30日、これまで長い間特許をめぐる裁判に適用されてきた法的基準について、これを覆す判断を担当裁判官の全員一致で下した。この基準をめぐっては、特許とされるだけの価値がないのに特許と認められる、いわゆる「自明な特許」が大量に生まれる温床になっているとして、ハイテク企業からの批判が強かった。

 今回の判決により、質に問題のある特許への異議申し立てをより簡単にするものとして、大いに待ち望まれていた判断が裁判所によって下されたことになる。既知の発明要素を組み合わせたものを、どこから新しい特許と認めるか、その条件をめぐっては、知的財産権に関わる訴訟を専門に扱う連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が設けた基準があるが、今回の判断で、裁判官たちは現在の基準を緩和するよう求めた。

 Anthony Kennedy裁判官が執筆した多数意見(PDFファイル)の中で、最高裁は、「真の新しい要素がない、通常のプロセスで生まれた技術進歩に特許による保護を与えることは、進歩を妨げる危険性がある。さらに、既知の発明要素を組み合わせた特許の場合は、これより先に発明されたものの価値や有用性を損なうおそれがある」と述べている。

 最高裁は、注目を集めたこの裁判の口頭弁論を2006年11月に開いている。この裁判は、KSR InternationalとTeleflexの間で生じた、自動車用アクセルの設計に関する、不明瞭な特許紛争に端を発したものだ。

 今回の判決に対し、ハイテク企業はただちに歓迎の意を表明した。以前から、IntelやCisco Systemsをはじめとするシリコンバレーの有力企業数社は、下級裁判所による過去の判決の修正を求める文書を、最高裁に提出していた。

 「今回の判決は、特許を与える価値のない特許や出願について、特許審査官が選別して却下する機会を増やし、特許の質を回復するのに大いに役立つだろう」と、Business Software Alliance(BSA)の顧問弁護士であるEmery Simon氏は言う。BSAには、Adobe Systems、Cisco、Microsoftなどの企業が参加している。

 その一方で、今回の判決が、特許保有者に対して広範な経済的影響をもたらすことを警戒し、特許制度が混乱状態に陥ることを懸念する声もある。

 特許法律事務所Sterne Kessler Goldstein & Foxの創業者でディレクターを務めるRobert Greene Sterne氏は、記者たちとの電話取材に応え、「あらゆる技術分野、とくに機械に関する発明、ソフトウェア、ビジネスモデルなど、われわれが『予測可能な技術』と呼ぶ分野では、発明者が米国の特許を取得することがさらに困難になり、ますます多くの時間と費用が必要になるのは間違いないと思う」と発言した。さらに同氏は「既存の特許ポートフォリオを調べたり、既存の特許との関連性を評価したりする作業が必要になるだろう」と付け加えた。

 連邦法には、同分野で「平均的な能力」を持った人なら誰でも考案可能と思われる発明には特許を付与できない、と明記されている。しかし、発明は自明だと後から主張するのは簡単なことから、CAFCは1982年、より客観的な結論を出せるようにするため、法的テストを設けた。

 この基準では、発明を自明だと断定するには、平均的な能力を持った人なら発明に用いられている特定の要素を組み合わせることを考えついたはずだと証明する「教示、示唆、または動機」が存在しなければならないと定められている。

 この自明性テストを満たすには、実際には書面による証拠が必要なことから、自明だとの主張のあった特許でも、これを覆すことは困難になり、しかも、この基準のおかげで、米特許商標庁からの特許の取得は容易になった、との批判が起きていた。ハイテク企業の場合は、新しい製品やアイデアを考案するペースがおしなべて速いため、文書による証拠をそろえるのはとくに難しいとの不満が強い。

 「書き留めたり資料としてまとめたりすることはない。学術的な考察の対象ではなく、そもそもCAFCが見ることを想定していない」と、Computer and Communications Industry Association(CCIA)の代表を務めるEd Black氏は30日の取材に対して語っている。CCIAは、Google、Oracle、Red Hat、Verizon Communicationsなどが参加するハイテク業界団体だ。

 今回の判断を示した連邦最高裁の裁判官たちは、自明性基準をめぐる以上のような批判に理解を示している。「発明をめぐる知的探求、および現代のテクノロジーの多様性を見るに、(自明性に関する)分析をこのような形で制限することはそぐわない。多くの分野では、手法や要素の組み合わせについて、その自明性を問う議論はほとんど行われず、開発の方向性を決するのは、科学論文よりも市場の需要である場合が多いはずだ」と裁判所は記している。

この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ

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