サッカーW杯、疑惑判定防止にハイテク利用の道は開けるか?

文:John Borland(CNET News.com) 翻訳校正:吉武稔夫、小林理子2006年06月20日 21時36分

 ベルリン発--世界中の注目を集めている2006FIFAワールドカップドイツ大会だが、現地時間6月10日のアルゼンチン対コートジボワール(グループC)の対戦で、試合開始14分、アルゼンチンが放ったヘディングシュートはゴールポストに跳ね返り、コートジボワール側のキーパーの両手の中に納まった。しかし、その前にボールはゴールラインを越えたようにも見えた。

 ゴールだったのだろうか?アルゼンチン側はそう思ったし、コンピュータを使用してドイツのテレビ局が再現したリプレーでもそう見えた。しかし、審判はこれをノーゴールの判定を下して、そのまま試合続行となった。

 同様の問題が18日のフランス対韓国の試合でも持ち上がった。フランスチームのシュートが韓国のゴールラインを越えたように見えたが、ゴールとみなされなかったのだ。結局、この試合は1対1の引き分けに終わった。

 ブロガーやスポーツファンの間で絶え間なく議論の的となり、新世代のサッカーテクノロジが回避しようとしているのは、このような判定のあいまいさだ。有望な技術の実験も先ごろ行われたのだが、異論のあるゴールなど論議を呼ぶ判定に関する問題を解決してくれそうなハイテク技術の導入について、FIFAは今年のワールドカップでは見送った。とは言え、FIFAがハイテクの利用に消極的だということではない。

 10年も前に、FIFAはスコットランドのグラスゴー大学にこの件で協力を要請したことがあったが、FIFAの厳しい要求を満たすものはできあがらなかった。その後、あるイタリア人の個人発明家が、ゴールを認識するチップをボールに組み込むというアイデアをFIFAに持ち込んだ。FIFAではその技術のテストを行ったが、満足のいく結果は得られなかった。

チップ埋め込みボールの可能性

 最新で、そして最も有望視されているのが、RFIDチップを埋め込んだ「スマートボール」だ。ドイツ企業Cairos Technologiesと技術調査やソフトウェア開発を手がけるFraunhofer Institute for Integrated Circuitsがスポーツ用品のAdidasと協力して開発した。

 この技術は、ボールの正確な位置をリアルタイムで追跡するために受信装置のネットワークをフィールドに配し、ボールがいつゴールラインを完全に越えるかも正確に把握する。この情報は審判が身につけた腕時計型の装置に1秒とかからずに送信されることになる。

 当初、このシステムが今年のワールドカップで使用できるのではないかと期待がかけられていた。しかし、昨年の秋にペルーで開催されたU-17世界選手権でのテストを経て、このシステムはトップレベルの試合に使用するにはまだ不十分な点があるとFIFAは発表した。開発した企業側もFIFAも、問題点がどこにあるのか詳細を明らかにしていない。

 ドイツのAdidas広報担当者Anne Putz氏は次のように述べている。「技術的な面から見て、解決しなければならない点がまだいくつかある」

 しかしながら、FIFAで以前に審判の責任者を務めていたGeorge Cumming氏は、このシステムについて複数の問題点を指摘している。まず、ゴールのバーを越えてネット上に落ちたボールをゴールと判定してしまうという点。また、シュートに関する情報が審判の元に届くまでに数秒かかることもあるという点。そして、おそらく最悪な問題は、フィールド上に複数のボールが存在するとシステムがクラッシュしてしまう点だ。これは、ボールボーイが代わりのボールをフィールドに投げ入れるのがほんの少し早すぎたりしても起こることになる。

 Cairos Technologiesの広報担当者は、ワールドカップ閉幕後さらにテストを続ける予定だと述べた。

自動カメラシステムの有効性

 スマートボールの対抗馬となるのは、イタリアで開発された「高性能デジタルカメラ」を使った技術だが、こちらもまだ実験の初期段階にある。FIFAはこの研究に対して3月にゴーサインを出しているが、今のところこの技術に関する詳細を明らかにしておらず、公式なテストの予定もまだない。

 イタリアのシステムがどのようなものか詳細な情報は乏しい。しかし、イタリアのサッカー協会は数年にわたってこのようなシステムの研究に資金を投入しており、問題点のいくつかをおおまかに述べた文書(PDFファイル)も公開している。

 フィールド外で試合を監視する第三者を必要としない自動カメラを利用するというシステムには、いくつかの問題点があると研究者たちは報告している。おそらく最も難しい部分は、正確な画像認識機能だろう。どのようなシステムであれ、ゴールライン上のボールと、たとえば手や足や迷い込んできた鳩とを区別できるものでなければならない。

 こういったさまざまな難関があるため、決勝戦に駒を進める2チームが決まる7月になっても、主審や副審たちが頼りにできるのは、過ちを犯すかもしれない自分自身の感覚だけだ。しかし、間違った判定のせいで試合に負けるチームが現れない限り、根っからのサッカーファンから大きな不満の声が上がることはないだろう。

 Cumming氏は次のように述べている。「人間が行うゲームとしてサッカーを見なければならない。それは最高のゲームであり、人間のゲームなのだ。そして、人間とは過ちを犯すものだ。サッカーから人間的な過ちを排除しすぎてしまったら、ゲームとしての美しさを失うことになってしまう」

この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ

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