これは物議をかもしている「モバイルフィルタリング問題」に続き、開き始めた独自ネットワークが再び閉じていく可能性につながるような噂なのかもしれない。
NTTドコモは4月、ドコモ公式サイト内に企業のモバイル向けサイトを掲載する新コーナーを新設する見通しだ。複数のモバイル業界関係者およびドコモ関係者からの証言で分かった。
要するに、モバイル業界関係者の間では常識になっている「モバイル向けの企業サイトはパソコン向けのそれに比べて圧倒的に少ない」という問題を劇的に改善する可能性を秘めているという話だ。
航空券予約や人気SNS「モバゲータウン」などで注目を集めるモバイルインターネットの世界だが、「実際はモバイル向けのホームページさえ持っていない企業が多く、世間で言われている広告出稿の伸びは現場では実感しづらい」(複数のモバイル業界関係者)という。
特に、流通業の企業がモバイル向けのホームページさえ持っていないという状況は厳しい。ネット広告は本質的に、効果測定しづらいブランディング広告ではなく、明確な反応を実感できるレスポンス広告であるところに企業からの人気の本質がある。Googleの検索連動型広告がその代表例だが、そもそも広告の誘導先となるモバイルサイトを企業が持っていなければ、モバイルの世界でレスポンス広告としての価値は見い出しづらい。
さらに、パソコン向けと比べてモバイルは検索精度が低いとの指摘も多く、“入り口と出口”の両方で広告ビジネスはもちろん、ECや課金サービスが展開しづらい状況となっている。
あるモバイル業界関係者の独自調査では「モバイルサイトを開設している企業は全体の5分の1にも満たない。流通業だけなら10%以下」という。この状況に対し、シェア5割を超える最大手キャリアのドコモが公式サイト内で企業のホームページ誘致策を積極展開すれば、「企業のモバイルサイト開設率が急速に伸び、ビジネス展開可能な領域が飛躍的に広がる」(モバイル広告関連企業幹部)と期待されている。
ただ、期待の一方で懸念されているのが、再び公式サイトの存在感が増し、モバイルインターネットの世界が閉じられたネットワークになってしまう可能性だ。
GoogleとKDDIのモバイル検索における提携をきっかけに、モバイルインターネットのオープン化が加速し始めた。ドコモもソフトバンクモバイルもこの流れに追随し、公式サイト外の「勝手サイト」でも、そのビジネス展開の可能性に各界からの注目が集まった。
しかし、今回のドコモの施策により、この流れに逆行する形で公式サイト内に企業サイトが集中する展開に発展すれば、「モバイルサイト=公式サイト」というかつてのモバイル事業者の認識が再浮上してくる可能性を否めない。
「モバイルサイトでも企業が製品情報やIR情報を提供するのは当然の流れ。しかし、それを公式サイト内で行うというのは、やはりドコモは閉じたネットワークでビジネスをしてもらいたいという意図を感じざるを得ない」(モバイル事業支援企業幹部)。
公式サイトでの企業サイト誘致策の詳細は不明だが、「既存の公式サイト掲載の審査基準とは別のもっと緩い審査基準を作ると聞いている。つまり、産地直送品を取り扱う地方企業などでも公式サイトに入れるという、ロングテールを狙ったものになるのではないか」(同)との指摘もある。
ドコモはCNET Venture Viewの取材に対し、「確かに検討はしているが、内容の詳細や開始時期についてはまだ決まっていない」(広報部)とコメントした。
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