モバイル市場は、加入者1人あたりの月間売上高(ARPU)が減少していき、今後の携帯電話通信事業者は「量的な拡大」から「質的な拡大」へシフトする必要がある――。野村総合研究所(NRI)が12月24日に開催した「2014年度までのIT市場動向」に関連する説明会では、こうした見解が述べられた。
NRIでは、現在2兆329億円という規模の“モバイル関連市場”が、2015年3月末には4兆1769億円に拡大すると見込んでいる。その成長率は年平均15%だ。このモバイル関連市場は、モバイルソリューション(2015年3月末で7207億円)、モバイルコンテンツ(同4606億円)、モバイルEC(同2兆5403億円)、モバイル決済(同1008億円)、モバイル広告(同2231億円)、ワイヤレスブロードバンド(同1314億円)で構成され、モバイルECが最も大きな割合を占めるものと見込まれる。
モバイル関連市場が平均15%の成長を遂げると見込まれる大きな要因として、WiMAXや次世代PHSなどの普及に加えて、第3.9世代携帯電話規格である「Long Term Evolution(LTE)」が2010年以降に提供開始するなど、通信インフラの高速化を挙げている。これにより、モバイル端末を経由してサービスを提供するといったビジネスの存在感が増していくと、NRIは分析している。
NRIの調査では、携帯電話で映像を視聴するユーザーは10代で69.3%と特に顕著だが、20代〜40代でも50%前後と各世代で一般的になりつつあるとしている。反対に、地上波テレビの視聴時間は減少傾向にあるという。
NTTドコモが提供する動画サービス「BeeTV」は10月時点、会員数80万人を突破している。NTTドコモは、テレビコマーシャルをはじめ、iモードやiチャネルの広告枠、電車広告、看板広告など、多額の資金を投じたプロモーションを展開してきたという。NRIのコンサルティング事業本部 情報・通信コンサルティング部 主任コンサルタントである三宅洋一郎氏は、「しっかりと費用をかけてマーケティングを行えば、有料でも顧客は集まる」と指摘する。
また、2011年7月のアナログ停波による携帯端末向けマルチメディア放送が開始することも、モバイル関連市場が拡大する要因として挙げている。これまでワンセグで実現していたサービスとは異なり、有料での放送が不可欠になるというマルチメディア放送では、効率的な同時配信ネットワークを生かした場所や時間にとらわれないサービスを提供できるようになる。
マルチメディア放送が普及するには、「ワンセグなど既存のサービスとの差別化、建物内でも放送を受信できるようなインフラの構築と投資、消費者に認知させるようなプロモーションなどが求められる」(三宅氏)と分析する。
携帯電話の契約者数は年々鈍化しつつも、契約回線数は2009年度の1億1000万件から2014年度には1億1500万件と依然として増加する見込みという。主な要因として、ユーザーが複数の携帯電話を所有する“2台目需要”や、若年者層や高齢者層の新規加入などを挙げている。
一方で、契約者数の成長鈍化や、各携帯電話通信事業者による低価格化の競争などにより、ARPUが減少しているという。NRIの調査によると、広告配信を目的としたユーザーの情報取得・利用に対して、消費者は抵抗感を抱いているということが明らかになっている。NRIの情報・通信コンサルティング部 主任コンサルタントである宝川洋介氏は、「販売効果は高まるものの、消費者は不安を抱いている。通信事業者は、このような点も考慮すべき」と指摘した。
こうした分析から宝川氏は、携帯電話通信事業者は契約者増加を求める「量的な拡大」から、顧客1人あたりのロイヤルティーの向上という「質的な拡大」に注力ポイントをシフトすべきという見解を明らかにしている。
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