100万曲を聴き放題に--タワーレコードがナップスターと組んだ理由 - (page 3)

インタビュー:西田隆一(編集部)
文:永井美智子(編集部)
2005年09月16日 18時41分

--5年後の音楽市場をどう見ていますか。

  今年の2月に米国で音楽配信の調査をしたときに、レコードチェーン店も何店舗も周ったのですが、その中にAmoeba Musicというチェーン店がありました。体育館のような広い店舗に新譜と中古の両方を置いていて、音楽マニアを売り場のスタッフに採用して権限を委譲していることで、何年も前から話題になっているんです。

  米国では音楽配信やEコマースが大きく伸びていますし、Wal-MartやBest Buyのような量販店でもCDを売っているので、専門店はつらい状況にあります。大手のチェーン店を周っても、ぱらぱらとしか人がいませんでした。

  でも、同じ時間にAmoebaに行くと、レジに列ができているんです。何人ものお客さんがCDをたくさんかごに入れて会計を待っている。その光景を見たときに、やっぱり音楽ファンの需要を満たすような店舗を作れば、そこに音楽ファンは集まってくるというのを確信しました。

  もちろん業界では淘汰も再編も起きるでしょうが、音楽に対して情熱を持って取り組んでいるプレイヤーは残るでしょう。

--音楽市場の中心が店舗であることに変わりはないと?

  やはり店舗に行ってショッピングをする楽しさはあるでしょう。たくさんの商品を眺めてコメントカードを見ながら自分の知らなかったものを探すという商品の選び方はまだウェブでは実現できていません。店舗の情報量というのは、いまのウェブのインターフェースでは表現できないほどのものがありますし、それを楽しみとしている人にとってウェブは物足りないと思います。

  しかし、だからといって店舗に優位性があり続けるということではありません。例えば、大きい本屋を周って本を探す楽しみがある一方で、検索エンジンを使ってウェブで簡単に目的の本を買う快感もあります。この2つのいいところを店舗とウェブで補完していくことが大切でしょう。

  何年か前にコマースサイトと実店舗を組み合わせて相乗効果を狙う「クリック&モルタル」という言葉が流行しましたが、本当の意味でクリック&モルタルになっているところは少ないんです。ウェブはウェブで最高のサービスを模索し、店舗は店舗で最高のサービスを模索する。それができているから、2つが補完し合うことでクリック&モルタルになるのであって、ウェブしか手がけていない企業が何となくリアルの場を作っても、逆にリアルで展開している企業がEコマースや音楽配信もやってみようというだけでも難しいと思うんです。

  だからこそ、タワーレコードはNapsterという海外で評価の高いサービスを軸に、音楽配信もEコマースもトップレベルのサービスを模索します。同時に、タワーレコードという実店舗のサービスと相互補完することで、ユーザーが「こんなに気持ちよく音楽を買える場所はない」と思うようなものを作りたいんです。

  Eコマースを始めたときもそうだったんですが、音楽配信でも「今後は店舗がすべて音楽配信に置き換わるのか」という話になりがちです。しかし、それは規模から考えてもありえない。

  そうではなくて、ユーザーの選択肢が増えるというのが正しいと思います。大きい本屋で本を買いたいときがあれば、Amazonで簡単に本を買いたいときもある。2つを使い分けているからこそ便利になったと思うわけで、どちらかしかなければ豊かではない感じがしますよね。

  我々は時流に乗って音楽配信サービスを始めるわけではまったくなくて、店舗とウェブの双方を使って、タワーレコードの顧客にさらに楽しいことを経験してもらおうと思っています。

  タワーレコードの店長や店員は、たとえ音楽市場の規模が100億円に縮小したとしてもレコード店をやっているような音楽好きばかりなんです。音楽配信サービスを手がけるほかの企業は、本当にそんな状況になっても音楽を売り続けるのかといえば疑問です。

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