タワーレコードは米Napsterと共同で、2006年4月から音楽配信サービスを始める。アップルコンピュータのiTunes Music Storeのような1曲単位でダウンロードできる従量課金サービスだけでなく、毎月一定の会費を支払うことで無制限に楽曲をダウンロードできる「サブスクリプションサービス」を提供する点が特徴だ。
サブスクリプションサービスは事業者が用意した楽曲をすべてPCにダウンロードでき、会費を払い続けている間は自由に聴けるサービスだ。ただし、退会したユーザーはダウンロードした楽曲を聴けなくなる。このため、Napsterでは楽曲をいつまでも楽しみたいというユーザーには1曲99セントで楽曲を販売する「Napster Light」というサービスも提供している。
米国ではNapsterのほか、Real Networksが運営するRhapsodyもサブスクリプションサービスを提供しており、ユーザーからの強い支持を得ている。しかし、米国では音楽出版社とサブスクリプションサービス事業者の間でライセンス料金の比率をめぐる論争が起きており(関連記事)、日本でもレコード会社や著作権を管理するJASRACとの調整が重要になってくる。
また、音楽配信市場が拡大することで、タワーレコードの主力事業である音楽CDの販売が落ち込む危険性もないとはいえない。このような問題に対して、タワーレコードではどのように対処していくのだろうか。代表取締役社長 最高経営責任者(グループCEO)の伏谷博之氏に話を聞いた。
--なぜ実店舗で高いシェアを持つタワーレコードが音楽配信に参入しようと考えたのでしょう。
タワーレコードは26年前に日本でビジネスを開始して以来、ずっと音楽のパッケージ流通によって日本の音楽市場の活性化に貢献してきました。1996年にはEコマースという新しい流通の形に対応するため、コマースサイトも開設しています。音楽配信についても数カ月前に検討を始めたわけではなく、新しく登場した流通形態を使って新たなサービスをどう展開するかという議論を何年も前からしてきました。
タワーレコードから見れば音楽配信というのは音楽技術の変革の1つです。音楽流通の最前線でユーザーと音楽を結びつけるサービスを展開してきた当社にとっては、ユーザーの支持がある新しい流通インフラ上でサービスを展開するのはある種の使命でもあります。
こう考えると、我々にとって音楽配信を手がけることにはまったく違和感はありません。むしろ、いまなぜIT企業が急に音楽ビジネスをやりたがっているのかということのほうがよっぽど不思議です(笑)
--ただ、既存の店舗流通網を持っている企業がインフラも価格帯も違うビジネスをするとなると、自社の事業ドメイン間で市場を食い合う懸念はありませんか。
音楽パッケージ市場はここ数年右肩下がりで、音楽パッケージ不況とも言われています。しかしタワーレコードは、年に5〜7店舗の出店を続けている。それがなぜ可能なのかといえば、我々が間に入ることで音楽とユーザーを結びつける機会を作り出しているからなんです。
今は音楽メディアが売れ筋の商品に偏っていて、どこも同じような情報しか載せていない。音楽が露出している場所も少なくなっています。しかし、音楽は触れる機会が増えれば増えるほど、「聞きたい」「買いたい」という感情を喚起するものなんです。
タワーレコードが音楽配信にサブスクリプションモデルを選んだのは、ユーザーが気軽に非常に多くの楽曲と接することができるサービスだからです。これによって音楽市場自体が活性化し、パッケージの販売にもつながるという考え方をしています。
音楽配信の事業者は音楽配信ビジネスを成功させたいと思っているし、着うた事業者は着うたビジネスを成功させたいと思っているでしょう。しかしタワーレコードの場合は音楽市場全体を活性化しようとしているので、パッケージ販売も音楽配信も必要なんです。
--Napsterと合弁企業を設立しますね。
音楽配信事業をするにあたって、2つの選択肢がありました。1つは自分たちで1から事業を立ち上げる。もう1つは、すでに海外で豊富なビジネス経験を持ち、すぐれたサービスを展開している企業と提携するというものです。
今年の1月頃から海外の複数の音楽配信事業者と話を始めて、海外の音楽配信サービスの3大ブランドであるiTunes Music Store(iTMS)、Rhapsody、Napsterのどこかと提携して参入するかのがいいと考えるようになりました。やはり1から自分たちだけで理想のサービスを作るには時間も工数もかかりますし、海外の経験を生かせるのは大きなアドバンテージになると考えたからです。
しかし、iTMSはiPodと組み合わせたビジネスモデルを取っているし、RhapsodyはRealNetworksがRealPlayerのフォーマットを普及させたいと狙っている。そう考えると、純粋に音楽配信によって新たな音楽流通の方法を作り上げていこうとしている企業はNapsterしかなかったんです。
もちろん、過去の訴訟の経緯でNapsterと聞くと穏やかでない人もたくさんいるでしょう。Napsterは結果的に音楽業界に損害をもたらしましたが、Napsterを開発したShawn Fanningはもともと、音楽好きな人たちが持っている楽曲をお互いに探せる検索エンジンを開発しようとしていた。そういう意味では、音楽好き同士をコミュニケーションさせようというところが原点なんです。
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