Bruce Chizenは、他のソフトウェア会社の幹部が知らない何かを知っているのだろうか。
Adobeは最高経営責任者(CEO)Bruce Chizenの指揮下で、低迷を続けるエンタープライズソフトウェア市場に、さらに深く入り込もうとしている。他社のクライアントソフトウェアが軒並み値崩れを余儀なくされているなか、Adobe製品だけは高価格を維持している。実際、2004年春には四半期の売上が過去最高額を記録した。また、世界最大のソフトウェアメーカーであるMicrosoftとも、少なくとも今のところは良好な関係を保っている。しかも、電子文書市場ではMicrosoftを大きく引き離し、首位を独走している状態だ。
しかし、そんな同社にとって懸念が全くないわけではない。例えば、Microsoftが市場を理解するのは時間の問題だろう。Adobeの看板製品と競合するソフトウェアは、オープンソースの世界からも登場しつつあり、その数が今後さらに増えることは間違いない。
しかし、2000年に創設者John Warnock の後継者としてCEOに就任したChizenは、すでに打つ手は考えてあるという。ChizenはCNET News.comの取材に答え、業界再編やデスクトップLinuxに対する自らの考えを語った。
--最近ではソフトウェアは無料か、とても安価に手に入れられるものだと考えられています。Adobeがこの流れと距離を置くことができたのはなぜですか。この状況は今後も続くのでしょうか。
オープンソースをどう思うか、という質問はよく受けます。実際、オープンソースの世界にはPhotoshop、Illustrator、PostScriptといったAdobe製品と競合する製品がたくさんありますからね。しかし、革新的で質の高い製品であれば、ユーザーは投資を惜しみません・・・一部の競合企業と違い、Adobeが売上を伸ばし、成長を続けることができたのはそのためです。確かにソフトウェア業界では統合が進んでいますが、幸い、われわれには火の粉がふりかかっていません。
--数年後も、商用ソフトウェアや、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)は残っているのか・・・そう思うことがありませんか。
残っていると思いたいですね。
--ソフトウェアのライセンスモデルの変化についてお聞きします。ソフトウェアサービス、つまりソフトウェアをオンデマンドで提供する試みをどう思いますか。この動きはAdobeにも影響するのでしょうか。
そうなるでしょう。重要なのは、ブロードバンドの普及速度です。現時点では、ブロードバンド回線経由でホスト上のアプリケーションを実行するより、デスクトップで作業をした方がはるかに効率的です。Adobeのウェブサイトでは「Create Adobe PDF Online」(オンラインAdobe PDF作成)サービスを提供しています。これはお客様の文書をPDF (portable document format)に変換するサービスですが、このサービスがうまくいっているのは、処理内容が単純で、帯域幅をあまり必要としないからです。あと3、4年、あるいは5年もたてば、状況は変わり、もっと多くのアプリケーションをホスト上で実行できるようになるでしょう。
--Adobeはエンタープライズ市場での存在感を高めるために、AcrobatとPDFを柱とする取り組みを進めてきました。最近の進捗を教えてください。
PDFの企業内利用を促進する方法は2つあります。ひとつはAcrobatを中核とする、従来のデスクトップ戦略、もうひとつはサーバ製品を中心とする戦略です。サーバ分野では、われわれはPDF文書の作成、ビジネスプロセス管理、文書管理、そしてこれらの文書から情報を抽出するためのソフトウェアを提供しています。
--エンタープライズ市場への進出は、Adobeにとって大きな方向転換です。この転換を成功させるためには、社内の考え方を変える必要があったと思うのですが。
確かに変化はありました。無関係に思われるかもしれませんが、ホンダのこれまでを思い出してください。ホンダは高品質なエンジンと、すばらしい生産プロセスを持っています。これがホンダのコア・コンピタンスです。ホンダはこの能力をてこに、芝刈り機の生産から、バイク、小型車、大型車、そして高級車の生産へと事業を拡大していきました。現在はジェット機用エンジンを生産するかたわら、GEと提携して、個人用小型機の生産にも取り組んでいます。
これと同じようなことが、Adobeでも起きているのです。AdobeはもともとPostScriptと印刷システムを提供する企業でしたが、やがてプロのクリエイターにデジタル写真ソリューションを提供するようになり、現在は大企業向けのソリューションも提供しています。エンタープライズ市場に進出する際、われわれはいくつかの変化を余儀なくされました。契約条件や課金体系、パートナーシップの構築、製品の宣伝方法--こういった分野では、従来のやり方を変えなければなりませんでした。しかし率直にいって、かつてPostScriptからパッケージソフトウェアに事業の重心を移したときも、われわれは同様の変化を経験したのです。
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