インターネットの運営は誰の手に委ねるべきか---。
これはもはや学問的な問いではない。1998年以来、ドメイン名とアドレスの管理は米カリフォルニア州マリナ・デル・レイに本拠を置く非営利組織Internet Corporation for Assigned Names and Numbers (ICANN)に委ねられてきた。
ICANNはこの6年で大きな成果を上げている。ドメイン名紛争処理方針を策定し、米国政府が作成した特別協定を認め、「.aero」「.museum」などの新しいトップレベルドメインを承認した。その一方で、米国議会で噴出したICANN批判や、時に外国政府から向けられるあからさまな敵意も切り抜けてきた。
しかし、ついにインターネットの統治構造を見直すときが来たようだ。現在、ICANNは米国でVeriSignの攻撃にさらされている。VeriSignは政府から.comと.netドメインのマスターデータベースを管理する権限を得ているが、この権限を使って利益を得ることをICANNがくりかえし妨害しているとして、先月ICANNを連邦裁判所に提訴した。一方、国際的には国連という強力なプレーヤーが台頭しつつある。ある国連機関がメール100通につき1セントの課税を提案した1999年以来、国連はインターネットとの関わりを強めようとしている。
こうした激動期にICANNの舵取りを任されているのが会長のVint Cerfだ。「インターネットの父」として知られるCerfは、インターネットの中核を担うTCP/IPプロトコルの共同設計者でもある。CNET News.comはCerfにインタビューを行い、新しいトップレベルドメインについて、また国連との関係やICANNの今後について話を聞いた。
---VeriSign CEOのStratton Sclavos氏は以前行ったCNETとのインタビューのなかで、「ICANNは革新を妨害している」と話していました。この発言についてどう思われますか。
正直、少し驚いています。1つ例を挙げましょう。IETF(インターネット・エンジニアリング・タスク・フォース)は少し前からENUMと呼ばれるアイデアの実現に取り組んでいます。ENUMはドメインネームシステム(DNS)にNAPTR(naming authority pointer)という概念を導入することにより、DNSの機能を大幅に拡張しようという試みです。
ENUMを実現するためにはNAPTRレコードを実装する必要がありますが、これによって既存のサービスが影響を受けることはありません。このように、ICANNはDNSの機能拡張や、そのための革新を支援しています。ICANNはITU(国際電気通信連合)やIAB(インターネット・アーキテクチャ委員会)と密接に連携して、ENUMを実現するための仕組みを作ってきました。
---VeriSignによれば、ICANNはSite Finderが引き起こした技術的問題に関する調査報告書をまだ提出していないとか。報告書を発表する予定はあるのですか。
あります。調査委員会は今、最終的な事務作業を行っているはずです。この問題にはきちんと取り組んでいますよ。
---今回の訴訟のことを、インターネットを設計した人々とインターネットから利益を得ようとする人々の間の文化的衝突と見る人もいます。実際はどうなのでしょうか。
正直なところ、私は今回の訴訟はインターネットの商用化がもたらした副作用のようなものだと考えています。1988年頃、私はこの種の商用化を積極的に支持していました。商用モデルを確立し、自主採算性を確保しなければ、インターネットの運用を維持することはできないと考えたからです。政府の支援は永遠ではありません。
しかし、インターネットにはその構造上、容易に変化を加えることができる場所と、非常に難しい場所があります。おそらく、今回の衝突の原因もそこにあるのでしょう。インターネットの末端になら、思い切った機能追加を行うことができます。インターネットは階層構造を持つネットワークなので、上位レイヤになら、下位レイヤのシステムに影響を及ぼすことなく、新しい機能を簡単に追加することができるのです。しかし、システムの中核部分や中核要素に変更を加えることはきわめて困難です。
---具体的にいうと?
IPv4からIPv6への移行がよい例です。IPはインターネットの中核要素であり、IPv6の追加は大きな挑戦でした。実際、遅々として進んでいません。アジアや欧州ではようやく進展が見えてきましたが、このように中核に近づけば近づくほど、変化を加えるのは困難になります。
この20年にインターネットで起きた革新のほとんどは、上位のプロトコル階層、つまりインターネットの周辺部分を対象としたものでした。インターネットの最初の設計図にウェブは存在していません。ウェブはその上に乗るものですから、それでよかったのです。音声や動画の配信、VoIP、インスタントメッセージングといったWebアプリケーションは、どれも上位プロトコルで実現されるものなので、導入ははるかに容易です。ここで衝突が起きたとすれば、それは文化的なものではなく、むしろ物理的なものでしょう。インターネットはある方向には伸びても、別の方向には伸びないようにできているのです。
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