世界最速のスーパーコンピュータといえば、NECが構築した地球シミュレータだ。これは地球のさまざまな現象を映し出す「仮想地球」をコンピュータ上に作り、地球規模での気候変動の解析や予測などを行うものだ。もちろん一般の人が触れられるシステムではない。しかし同じ仕組みを使ったオンラインゲームなら、誰でも気軽に楽しむことができるだろう。
オンラインゲームの開発・運営を行うコミュニティエンジンは8月27日、環境シミュレーションエンジンを利用したオンラインゲーム、「gumonji(グモンジ)」の正式サービスを開始した。
gumonjiは、シミュレーションエンジンによって自然法則が忠実に再現された空間の中で、プレイヤー同士が生態系や社会を作り上げていくゲームだ。ゲーム内の炭素、酸素、水素、珪素といった元素には物質量保存の法則が成立しており、動植物や土地などは互いに影響し合いながら存在している。このため、プレイヤーの行動の1つ1つが世界を変化させていく。
コミュニティエンジン代表取締役を務める中嶋謙互氏は、京都大学の学部生時代に同社を創業した。現在は、スクウェア・エニックスが84.4%、中嶋氏が15.6%を出資している。gumonjiは中嶋氏が学士論文用に作成した環境シミュレーションソフトウェアを元にしているという。
中嶋氏と、中国の子会社である稀億網絡軟件(北京) CEOの小林俊仁氏に、gumonjiの開発経緯とビジネスモデル、中国市場への展開などについて話を聞いた。
コミュニティエンジン代表取締役の中嶋謙互氏(上)と稀億網絡軟件(北京) CEOの小林俊仁氏 |
--大学時代に開発した環境シミュレーションソフトがgumonjiの元になっているそうですね。
中嶋:学生時代はずっと環境と経済のシミュレーションをやっていました。僕は農学部農林経済学科にいて、兵庫県の一宮にある森の経済効果について調べていました。森を維持していくにはどういう政策がいいかということを、コンピュータシミュレーションによって求めようとしていたんです。
1972年にドネラ H.メドウズなどが書いた『成長の限界 -ローマ・クラブ「人類の危機」レポート- 』という本が出版されて非常に話題になりました。これはワールド3というシミュレータの結果をベースに書かれた本で、どんなにシミュレーションの条件を変えても、2100年までの間に人口が急激に落ちるときがあるということを発見したものです。
僕は、シミュレーションのプログラムは一見難しいけれど、うまく工夫すれば多くの人が楽しめるオモチャになると思ったんです。『成長の限界』のような難しい本だけではなくて、みんながログインして楽しもうよというのがgumonjiのメッセージです。
--gumonjiではセルオートマトンという理論を使っているそうですが、少し解説してもらえますか。
中嶋:方法論としては、gumonjiは海洋研究開発機構の地球シミュレーションと全く同じで、世界のシミュレーションを徹底的に作り込むということを続けています。
地球の表面全体を碁盤目状に切ったマスをセルと呼びます。世界で最も細かいセルに分けたのが地球シミュレータです。解像度を細かくしたようなものですね。セルが細かいほど精密なシミュレーションができ、正確な気象予測ができます。
それぞれのセルは隣のセルとしか関係性がなく、隣り合うセルの状態に応じた単純な規則があるだけです。その計算式を適用して何回も計算し続けるのがセルオートマトンです。地球シミュレータの場合は薄い厚みを持った立体として計算するため、隣り合う6面との関係が影響しますが、gumonjiは平面なので4面です。
--コミュニティエンジンを創業した経緯は。
中嶋:大学生の頃、オンラインゲームの販売・運営を行っている会社でアルバイトをしていました。そのときにJavaでMMORPG(多人数参加型オンラインロールプレイングゲーム)を作って公開したところ、それを見たスクウェア・エニックスの人たちに声をかけてもらったのがきっかけです。
僕はもともと、ツール会社をやりたいと思っていました。「トイ・ストーリー」や「ファインディング・ニモ」を作ったアニメーションスタジオの米Pixerは最初、レンダリングツールを作っていたんです。ただ、そのデモンストレーションが素晴らしいということでコンテンツ会社へと成長していきました。コミュニティエンジンも同じように、ツールを販売しながらゲームもやっていきたいと考えています。Pixerのようになれたらいいですね。
--事業モデルの基本はツールの制作・販売なんですね。
中嶋:実は今、ほとんどの売上はツールによるものです。サーバ/クライアント用のミドルウェアを数社に販売しています。gumonjiは初のコンテンツ収入になりそうです。
--スクウェア・エニックスが出資していますね。
中嶋:オンラインゲーム市場が伸びるということと、スクウェア・エニックスがオンラインゲームを作っていきたかったという2つの理由で出資したんだと思います。
--中嶋さんはいつ頃からゲームの開発を始めたのですか。
中嶋:gumonjiは2年ほど前に開発を始めたのですが、ゲーム自体は中学生の頃から作っていました。gumonjiを作ったのは、オンラインゲームを作ったらと面白いことになるに違いないという単純な動機からです。そのうちに、だんだん本当に作りたいゲームの姿というものが見えてきて、今実ったというところです。
僕が最終的にやりたいシミュレーションを100とすると、gumonjiではやっと3くらいまで来ました。gumonjiが完全に成長したら50くらいまではいくかもしれませんが、残りの50は次のタイトルでやろうと思っています。
僕がやりたいことというのは、自分が火星に行って生活するような楽しさを仮想的に体験するというものです。自分が生きている間に火星に行くのは難しいと思いますが、ゲーム内でならできます。gumonjiに宇宙の物理法則を入れ込むのはおそらく無理があるので、そういうのも全部含めたようなゲームを作りたいですね。
--7月から行っていたgumonjiの第2回ベータテストについて聞かせてください。
中嶋:7月22日にベータ2をリリースしました。この時から、ユーザーが自分だけの土地を所有できるようにしています。自由に地形を作ったり、動植物を育てたりといったように、自分だけの世界を作ることができます。その土地をオークションにかけて、プレイヤー間で売買することも可能です。
ユーザーが土地を持てる仕組みは他のゲームにもありますが、プレイヤー間で土地をやりとりする機能は他にないと思います。また、持っている土地の量に応じて課金が増えるという仕組みもない。オークション取引が増えるほどゲーム運営者の収入が増えるというモデルも新しいと思います。
3月から4月までの間にベータ1を行ったのですが、土地争いが大きな問題になりました。土地を欲しがるユーザーが多いということが分かったので、ここで課金しようと考えています。何もないところにサーバを立てて土地を作ってそれを売る。ネット上で鉄道会社のビジネスモデルを構築したいですね。
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