ビル・アトキンソンの今、Appleの今

永井美智子(CNET Japan編集部)2004年06月11日 17時00分

 今年はMacintosh誕生からちょうど20年目に当たる。初代Macの開発メンバーの1人であったスティーブ・ジョブズ氏は最高経営責任者(CEO)としてApple Computerに復帰し、iMacやiPodといった新たな製品を次々と生み出している。

 開発メンバーのその後はさまざまだが、なかでもビル・アトキンソン氏の活動は異色だろう。同氏はグラフィックソフトウェアのMacPaintやオーサリングツールのHyperCardなどの開発者として知られる。1990年にGeneralMagicを設立したが、現在は写真家として活動している。

 アトキンソン氏はここ4年間、自身の初の写真集である『WITHIN THE STONE』の制作に費やしてきた。色の再現性にこだわり、印刷会社の帆風や東洋インキなどとともに、写真の色を忠実に印刷するための技術開発に取り組んできたという。アトキンソン氏の現在の活動や、今のAppleをどう見るかについて、話を聞いた。

自身の初の写真集『WITHIN THE STONE』を手にするビル・アトキンソン氏

---現在は写真家として活躍されていますね。もう、ソフトウェア開発の現場に戻るつもりはないのですか。

 ソフトウェアの開発をしていないというのは正しくない。もちろんソフトウェアを開発するために活動しているわけではないが、今でも自分が関わっているプロジェクトの中でソフトウェアの開発を行っている。

 今回の写真集でも、今まで出せなかったような美しい色をオフセット印刷で出すためにはソフトウェアを開発する必要があった。カラーマネジメントの研究もしたし、今までになかった高品質のプロファイル(モニターなど周辺機器の色特性をデータ化したもので、カラーマネジメントに必要となる)のために専用ソフトも作った。それは自分の作品をよりよく表現するために必要なものだったんだ。この技術はすでにいろいろな企業に公開している。これで誰でも、同じように素晴らしい印刷ができるようになった。

 かつてAppleにいたとき、私はクリエイティブな人々に力を与えるようなツールを開発してきた。それは今でも変わらない。今でも私はクリエイティブな人々に力を与えるようなツールを開発している。まず自分が作りたいもの、自分を表現するためのものを作るところから始まるけれども、そうしてできたものは他の人の自己表現を手助けするだろう。

---技術を公開しているという話ですが、具体的にはどのように?

 例えば、エプソンのプリンタで写真を印刷するためにICCプロファイルを開発し、公開している。米Epsonのサイトに行けば、誰でも無料でダウンロードできるようになっている。

 私は自分の知識や、知り得た印刷技術を他の人に公開している。今回のカラーマネジメントの技術は写真集の印刷を手がけた帆風などにも提供しているし、ソフトを独占するようなことはしていない。

 私は数少ない人しか得ることのできない機会を得られた。自分で満足できるような美しい芸術を作れたことに感謝している。だからこそ、その恩返しをしたいと思う。他の人がそれぞれの芸術を追求する手助けをしたいんだ。そのために、自分の技術やソフトを公開している。

---AppleでMacの開発に携わっていた頃と比べて、自身の生活で大きく違うと感じる点はどんなことでしょう。

 (Appleに入社した)27歳の頃、私は週に100時間仕事をしていた。私はもう53歳だ。家族もいる。いまはバランスのとれた生活を送っているよ。

 27歳の頃、つまり週に100時間もMacの開発をしていた頃は、家庭を犠牲にしてしまった。それで最初の結婚も失敗に終わってしまった。

 今はもっと、バランスのとれた生活をしている。もし今、スティーブ・ジョブズが私の所にやってきて「週に100時間仕事をしてほしい」と言っても、「ご免だね。私には生活がある」と言うだろう。私は大人になった。20年前とは違う人間だ。しかしそれは、家族ができてバランスをとることを覚えれば自然の流れだろう。

---そのスティーブ・ジョブズがAppleに戻ってきて、Appleは大きく変化しましたね。最近では音楽プレーヤーのiPodがWindowsにも対応するなど、企業姿勢が大きく変わったと感じさせます。現在のAppleをどう見ますか。

 すばらしいことをしていると思う。彼らの仕事を非常にうれしく思うよ。Appleはコンピュータに焦点を当てるのではなく、人々のニーズに焦点を当てている。

 はっきりいって、私はコンピュータがキライなんだ。私が好きなのは、コンピュータが私に何かをしてくれるということだ。

 今、Appleやスティーブが焦点を当てているのはまさにその点だ。コンピュータが人々にとって、一体何の役に立つのか。(ハードディスクが)何Gバイトになったとか、そんなことはどうだっていい。重要なのは、それで何ができるかということだ。

 iPodはまさにそれを実現している。「音楽を持ち運びたい」という欲求が根本にある。コンピュータは生活のあらゆる側面を集約させるデジタルハブとして存在しているに過ぎない。

 スティーブは今までで一番素晴らしい仕事をしているね。実際、世の中の多くの人がWindows PCを使っている。それが現状だ。だからWindowsユーザーにリーチすべきだ。それで多くの人がメリットを享受し、Macテイストを味わうことができる。プラットフォームは問題じゃない。重要なのは、人々にリーチし、彼らの生活をよりよいものにすることだ。スティーブは正しいことをしていると思う。

 Appleは今、本当に革新的な製品を生み出している。これはとても興奮するね。かつて、Appleはまったく革新的な製品を出さないときがあった。Appleの経営陣は誰もそんなことを考えてなかったんだ。スティーブが戻ってきて本当に嬉しいよ。Appleに革新性が戻ってきた。

 それから美しさもね。私はPower Mac G5を使っているが、本当に見た目が美しい。速くて、しかも音が静かなんだ。彼はいつも静けさと美しいデザインを重視していた。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画広告

企画広告一覧

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]