私はそのギャップがすごく気に入っていますし、大事なことだと思っています。私たちは徹底的にマニュアルにこだわっていて、どんどん自動化に向かっている世の中とは少し逆の方向にいっているのかもしれません。ただ、それは1杯のコーヒーに向き合って、こだわっている結果だと思っています。
たとえば、新たに発売するドリッパーは、MIT(マサチューセッツ工科大学)出身の研究者と共同開発したものです。3Dプリンタでプロトタイプを70個以上も作って、1つずつテストした結果、完成品のデザインになりました。ただ、繰り返しになりますが、こういった情報は商品を手に取るお客様は知らなくてもいいと思っています。実際に掘り下げてみると、そこまでテクノロジを活用してこだわっているということが、私たちのブランドの在り方や佇まいなのだと思います。
大きく3つあります。まず1つ目は、ドリッパーの凹凸である「リブ」が高く設計されていた方が、水が落ちるスピードが速くなり、その分美味しいコーヒーができるのではないかと考えていたのですが、実際に研究をしていくと、1滴の水滴よりも少しだけ低い高さでリブを作った方が、流れが速いことが分かりました。
2つめは、ドリッパーの厚みがあるほど温度を保つことができ、より美味しいコーヒーが抽出できるという仮説があったのですがそれも間違っていました。ドリッパーの中の温度を適切に保つには、厚さを適度にそぎ落としたものの方が良いことが分かりました。そこで、薄い形状を可能にする日本の有田焼のパートナーの技術によって、現在の薄さを実現したのです。
3つめが、どのような方法で抽出されると水がよく流れるかということです。当初は、リブがねじれていて、その中で水がぐるぐると回る方が美味しいコーヒーになるのではないかと思っていたのですが、こちらも研究の結果間違っていて、振動させずスムーズに流すほうが美味しく抽出できることが分かりました。そこで、穴に向かって水がまっすぐ落ちる形状にし、穴も0.1ミリ単位で適切なサイズに調整することで、1本の糸のようにすーっとコーヒーが落ちるように設計しました。この3つをそれぞれの角度で試しながら、1年かけてプロトタイプを完成させました。
オンラインストアECの話をする前に少し補足をすると、これまで米国では店舗ビジネス、オンラインビジネスに加えて、ホールセールという、レストランに豆を卸売りして、そこでブルーボトルコーヒーを提供いただくというモデルを展開していたのですが、2015年にすべて廃止しました。
それは、ビジネス的にはインパクトのある決断でしたが、やはり私たちのバリスタではない人がブルーボトルコーヒーのコーヒーを淹れても、同じ味にならないことが多かったのです。私も実際に、(豆を卸売りした店で)飲んだコーヒーが美味しくなくて、すごく残念な思いをしたことがあり、それに対してお客様にお金を払っていただいていることが許せませんでした。
その経験をもとに、お客様に提供する体験として、ブルーボトルコーヒーの店舗以外ではオンラインストアで豆を購入していただき、ご自身でコーヒーを淹れることにお金を払っていただきたいと思い、シフトチェンジをしました。オンラインストアでは、できるだけお客様にご自宅でコーヒーを楽しんでいただけるように、さまざまな種類のコーヒー豆や、挽きたての状態を保てるコーヒー粉である「Bottle Perfectly Ground Coffee」(現在は米国のみで展開)をご用意しています。
これらと新たなドリッパー使っていただければ、美味しいコーヒーを作るために必要な準備を、極力こちらで済ました状態になります。そういう意味では、ご自宅で飲むコーヒーのクオリティがさらに上がり、ご自宅でのコーヒー体験もどんどんいいものになるのではないでしょうか。
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