デザインから見るデジタルプロダクツ--第8回:富士通「FMV-BIBLO LOOX Uシリーズ」 - (page 3)

インタビュー・文:木村早苗2007年06月29日 16時18分

部品はすべて新規設計、工夫の積み重ねで実現した超小型化


--デザイン画のイメージをそのまま製品化されたとのことですが、ウルトラモバイルという小型化も含め設計面はかなりご苦労されたのでは。

足立 そうですね(笑)。これだけ小さい部品は今までにないですから、ほとんどが新規設計となりました。その際、小さくするという大命題を実現させるために、1つ1つの部品を細かくわけたのですが、部品数が増えると、今度は容積や重量が増してしまう。

 デザインに響かないよう設計をするため、バッテリをヒンジ部に置く、放熱口を背面に設けるなど、あらゆる工夫を凝らしました。

技術者チーム 富士通株式会社 パーソナルビジネス本部
写真左から
PCデザイン技術部 近澤永久氏
モバイルノート技術部 栗林 健氏
PCデザイン技術部 足立克己氏

--筐体の素材は何を使用されているんですか

足立 プラスチック樹脂です。当初はマグネシウムを使おうというアイデアもあったんですが、コスト面の問題もあって樹脂にしました。ただ、軽く薄く最低肉厚にしつつ強度を持たせる、という命題を実現するために、シャーシ代わりに骨を入れるなど工夫しています。

--コンパクトサイズと使い勝手を両立させる、という意味ではキーボードの設計がかなり重要になると思いますが、その辺りはいかがでしたか。

益山 大変でしたね(笑)。デザイン的には方眼紙のようにキー間のスペースが狭いものを提案したんですが、それだと親指操作には楽ですが、両手操作時にストロークがなくて押しづらい。そこで親指、両手、ともに最も押しやすい形を考えたら、やはりPC用キーということになりました。

栗林 通常PCには80キー程度が必要になりますが、これを全部入れるとキー幅が狭くなって使いづらくなってしまう。そこで、キー数を約30%削減した54キーに減らしました。ストロークは14mmピッチにすることで、親指操作でも両手操作でも押し間違えないように設計しています。キーストロークも当初は1mmの予定でしたが、押し込む感触とフィードバック感のある1.3mmに設定し直しました。あとは少ないキー数に合わせつつ、長い文章を打つための主要キーを中心に配置したり……。いくつもキー並びのパターンを作っては改良を加えて、ということを繰り返して作りました。

キーボード 54キーまでキー数を減らし、ブラッシュアップを重ねて生み出したキーボード配列(左)、ヒンジ部にライトを設けることによって暗い場所でのキー操作をサポートする(右)

--専用ペンでもタッチ入力ができるんですね。

栗林 ええ。専用ユーティリティがあるのでキーボードがなくても入力できるようにしています。専用ペンは、液晶上部に収納できるようになっているんですが、収納位置を決めるのも大変で……(笑)

 内部はギリギリの位置まで部品を配置していますから、スペースのない中、きちんと収まるようにエンジニアチームが苦労してくれました。このほかにもUSBのジャックをデザイ内側にきちんと収めてくれたり、デザインが美しく見えるよう最大限努力してくれましたね。

益山 普通、デザインしても設計段階で変更が余儀なくされることはよくありますから、こんなにうまくは行かないですね。

--ムダがなくて美しいデザインは、デザインチームと設計チームがそれぞれの分野を極めていくことで実現されているんですね。

木村 コネクタやインターフェースの位置って、やっぱりユーザの深層心理に訴えかけるところがあると思うんですよね。音楽でも名曲とされるクラシックは譜面も非常に美しかったりするから、それと同じだと思います。その部分を叶えてくれたのが、エンジニアチームなんです。

LOOX U デザイン 通常のノートPC(左)としても、タブレットPC(右)としても使える3WAY構造を実現している。

技術面、デザイン面の両方で“挑戦”が数多く詰まった


--それほどのチームワークで作られたLOOX Uですが、その中でも特に難しかった部分は?

超小型パーツ LOOX Uのパーツ類。今までにない小型パーツを新規設計し、ウルトラモバイルサイズを実現した

栗林 今回はウルトラモバイルというネーミング通り、超小型化を実現する一方で、買い求めやすい価格で提供したいという思いがあったんです。軽く、小さく、そして安くの3つをクリアしなければならなかった。ですから、液晶やガラス板なども小さく作れて、丈夫かつ安くというハードルの高い部品を探しました。全部大変でしたね。まぁ、あえて1つあげるとしたら一番苦労したのはキーボードですけど(笑)。

木村 そうして苦労していただいた甲斐もあって、LOOX Uは僕の中で100%希望が実現できた珍しい商品ですよ。

石塚 そういう意味では、ウルトラモバイルPCという全くの新規製品だったことも大きいでしょうね。前モデルと比較して○%売り上げなくては、などの目標も立ちませんから。

 売り上げ以上に「これだけ小さくてかっこいいPCを作ろう」という思いの方が強かった。既存品にはない新しいPCを作るためになんでもやってみようという気持ちが一丸になったんだと思います。

--さて、アドバンストデザインがLOOX Uで具体化されたわけですが、今後はどんな製品を作ってみたいですか?

益山 LOOX Uは全く新しい商品だったからここまで出来たんだろうけど、これが出来たからには、今後はもう少しいろいろできる気がしますね(笑)。

近澤 確かには、小型化、薄型化、軽量化など、技術的に新商品ならではの挑戦が数多く詰まっています。そういう意味では大きな進化を遂げた製品だと言えますね。

 次は、小型化をさらに突き詰めるというよりも、これをベースに足りない物や欲しい物を少しずつ足していって、より使いやすく、より多くのユーザーの人に受け入れられるものを作っていきたいです。

石塚 元々モバイルPCは、小さくすることで使用場所を拡大させ、よりPCを普及させたいという思いから生まれた製品ジャンルなんです。それが達成された今、今後はニーズの多様化にいかに対応していくかがポイントになるでしょうね。

 個々の趣味嗜好に合わせた、例えば音楽好きのためのPCのように、一機能に特化した物が出てもおかしくない。だから今後は、多種多様な嗜好に対応するデバイスとして広がるべきかなと。それが出来るのがモバイルですから、われわれも未来に向けてそういうデザインを考えていかないといけないでしょうね。

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