弊社には私を含め3人の創業者がいますが、非常に早期の段階で、オーナーから脱落していたのです。創業当時は3人でほぼ100%の株を所有していましたが、その期間は9カ月ほど。各種ベンチャーキャピタルに割り当てていった増資で、われわれのシェアはわずか2%にまで下がったことがあります。その後、「いくらなんでも2%では、上場してもむなしいじゃないか」という話になり、現在は3人で全体の2割ほどを所有している状態です。
弊社のこのような状況を知るベンチャー経営者たちによく、「怖くはないか」とか「経営スピードが落ちるのではないか」などと聞かれることがあります。でもそう思ったことは、まったくありません。株主への説明をきちんと行えば、それらを恐れる必要はまったくないのです。
もちろん株式を一般投資家の方に持ってもらった場合は、説明しきれない部分も出てくるでしょう。しかし弊社の場合、実際のホルダーはベンチャーキャピタルです。彼らの目的はあくまで、EXIT。われわれが上場できないような方向に誘導するわけがありませんから、きちんと説明していけば問題ないのです。
大体において、説明能力がない企業は上場すべきではありません。説明能力がなければ、株主に対しても、顧客や社員に対してもアカウンタビリティを果たせないわけですから、結果的にその企業の経営者は経営に向いていないのだと思います。
弊社の役員会には社外取締役が6人います。われわれ経営者と比べると、数の上では圧倒的に多いのです。社外取締役はそれぞれの専門分野から、われわれの事業計画や提案に対し、かなり細かい意見や疑問を投げ掛けてきます。彼らを説得しなければならない弊社の取締役会は、多分日本で一番、企業統治が働いていると思いますね。それほど激烈ですが、その分、良い方向性を選択できている自負があります。
実は企業規模が小さいうちは、まさにアカウンタビリティ以外に、経営者のやるべきことはないと思っています。もっと言えば、企業が大きくなっても、必要な仕事はそれに尽きるかもしれません。
よく「経営戦略の立案が経営者の仕事」だと言われますが、経営戦略はわざわざ立案するものではありません。日々行う細かい問題解決を含めた大きな流れの中で、自動的にできてくるものだと思います。それらを経営哲学や企業文化などを背景とした言葉に置き換えたものが、「経営戦略」になる。経営戦略は日々の中で、勝手に生まれてきているものです。
--経営者というのは、事業そのものを生みだすというより、企業内の決定事項を吸い上げていく役割を持っているということですね。
そうです。その他に経営者のミッションがあるとしれば、「逆行のオペレーション」があります。本来なら上から下へ自然に水を流すべきところを、創造的破壊をするために、あえて下から上へ水を流す。これが唯一、経営者のビジョナリーなエリアだと考えます。
われわれは社外役員です。経営上のアドバイスは強力にしていきますが、戦略に踏み込んだり、経営資源を提供したりはしません。われわれが参加者に与えるのは、テーマと事業領域です。もちろん、先ほど申し上げた通り、将来的なM&A候補という側面がありますから、われわれが望んでいたテーマ・事業領域とずれてきてしまった場合は、その旨を伝えますが、それで操業停止となったり、無理な軌道修正をはからせたりすることはありません。
それでも、事業が成功すれば、ベンチャーキャピタルにとってはいい結果ということになりますしね。
そうです。ただし、3年を過ぎたら、場合によってはわれわれからM&Aの交渉をするかもしれない、ということです。
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