「FAQ(Frequently Asked Questions)」という言葉を定着させたのもUsenetだ。FAQは初期のwikiプロジェクトのようなものだった。技術者たちがボランティアで書いた記事が蓄積され、やがて驚くべき深さと幅を備えたFAQとなった。「comp.ai.genetic」のFAQは今日でもなお、進化的計算論について、オンラインで入手できる最良の手引きとなっている。その充実した内容と比べると、Wikipediaの手短かな記述はいかにも見劣りがする。
こうした例は枚挙に暇がない。GNU/Linuxオペレーティングシステムの歴史も、同じような軌跡をたどった。共通点は、国境を越えた連携と、絶えず改良されるソフトウェアだ。これらの特徴は、Apacheウェブサーバ、Perl 6プログラミング言語など、他の多くの大規模なオープンソースプロジェクトにも見てとれる。「Majordomo」はメーリングリストを管理するための「グループウェア」プロジェクトだ。またもっと人気の高い「Mailman」というのもある。
ハイエクはこうした現象を「自生的秩序」と呼んだ。自生的秩序とは、人々が中央にいる権威者の指図なしに、自発的に協働し、交流することによって、驚くほど精妙な秩序を形成することを意味する。こうした秩序は、社会のあちこちに存在する。
これが計画に基づいて、人為的に構築された仕組みであったなら、それは「人間の精神が成し遂げた最大の勝利のひとつとして称賛されていただろう」とハイエクは「社会における知識の利用」のなかで述べている。後にノーベル経済学賞を受賞したハイエクはこのことをよく理解していた。
インターネットそのものも、自由な行為の反復によって生まれた自生的秩序のひとつである。インターネットは連邦通信委員会(FCC)や国連といった中央機関の計画によって生まれたわけではない。インターネットはそれを利用し、さまざまなサイトやプロトコルの作成に取り組んだ人々の間から有機的に誕生した。
開発者たちは複雑なシステムを使って、より複雑なプロジェクトにも取り組んできた。たとえば、CPAN(Comprehensive Perl Archive Network)は1995年以来、ウェブオートメーションからMPEGムービーの作成まで、Perl開発者が必要とするあらゆる種類のコンポーネントを大量に蓄積し、公開してきた。RCS(Revision Control System)は、何十人ものプログラマーが、相互の作業を妨害することなく、ひとつのプロジェクトに共同で取り組むことを可能にした。
そして今度は作家や写真家、ウェブデザイナーたちが、プログラミングの世界から学んだやり方で、共同作業に取り組もうとしている。Wikiが登場し、XML、RSSなどの標準(そして最近ではトラックバックやタグ)が普及し、その有用性が高まったことにより、プログラミング以外の世界でも、こうした共同作業を行うことが可能となっている。
これは「革命」だろうか。答えはおそらく否だ。むしろ現在の状況は、自生的秩序という単純な概念が、いかに大きな果実をもたらすかを鮮やかに示す例と捉えるべきである。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス