最終更新時刻:2008年7月24日(木) 14時15分

Web 2.0:次世代ソフトウェアのデザインパターンとビジネスモデル(後編)

Tim O'Reilly

2005/11/09 08:00  

※この記事はWeb 2.0:次世代ソフトウェアのデザインパターンとビジネスモデル(前編)の続きです。

3. データは次世代の「インテル・インサイド」

 重要なインターネットアプリケーションには必ず、それを支える専門のデータベースがある。Googleのウェブクロール、Yahoo!のディレクトリ(とウェブクロール)、Amazonの製品データベース、eBayの製品/出品者データベース、MapQuestの地図データベース、Napsterの分散型楽曲データベースなどだ。昨年、Hal Varianは個人的な会話の中で、「SQLこそ、次のHTMLだ」と語った。データベース管理は、Web 2.0企業のコアコンピタンス(中核能力)でもある。このため、これらのアプリケーションは単にソフトウェアではなく、「 インフォウェア(infoware)」と呼ばれることもある。

 この事実は、ある重要な問いを投げかける。それは「そのデータを所有しているのは誰か」というものだ。

 インターネット時代には、データベースをコントロールすることによって市場を支配し、莫大な収益をあげた企業が少なくない。当初は政府の委託を受けて、Network Solutions(後にVerisignが買収)が独占したドメイン名登録事業は、インターネットにおける最初のドル箱事業となった。インターネット時代には、ソフトウェアAPIを支配することで、ビジネス上の優位を確保することははるかに難しくなると書いたが、重要なデータソースを支配した場合、優位を確保することはそう難しくない。そのデータソースが作成に莫大な資金を必要とするものだったり、ネットワーク効果によって、収益を拡大する見込みのあるものだったりする場合はなおさらだ。

 たとえば、MapQuest、maps.yahoo.com、maps.msn.com、maps.google.comなどが生成する地図には必ず「地図の著作権はNavTeq、TeleAtlasに帰属します」という文章が添えられている。最近登場した衛星画像サービスの場合は、「画像の著作権はDigital Globeに帰属します」と書かれている。これらの企業は莫大な資金を投じて、独自のデータベースを構築した(NavTeqは7億5000万ドルをかけて住所/経路情報データベースを構築したと伝えられている。Digital Globeは公的機関から供給される画像を補完するために、5億ドルをかけて自前の衛星を打ち上げた)。NavTeqに至っては、お馴染みの「インテル・インサイド」ロゴを模倣し、カーナビシステムを搭載した車に「NavTeq Onboard(NavTeq搭載車)」のマークを付けている。実際、これらのアプリケーションにとって、データは「インテル・インサイド」と呼ぶにふさわしい重要性を持っている。ソフトウェアインフラのほぼすべてをオープンソースソフトウェアやコモディティ化したソフトウェアでまかなっているシステムにとって、データは唯一のソースコンポーネントだからだ。

 現在、激しい競争が繰り広げられているウェブマッピング市場は、アプリケーションの核となるデータを所有することが、競争力を維持する上でいかに重要かを示している。ウェブマッピングというカテゴリは、1995年にMapQuestが作り出したものだ。MapQuestは先駆者だったが、Yahoo!、Microsoft、そして最近ではGoogleといった新規参入者の台頭を許した。これらの企業はMapQuestと同じデータの使用許諾を受けることで、同社と競合するアプリケーションをやすやすと構築することができた。

 それと対照的なのがAmazonである。Barnesandnoble.comなどの競合企業と同じように、Amazonのデータベースも当初はR.R. Bowkerが提供する「ISBN(国際標準図書番号)」をもとにしたものだった。しかし、MapQuestと異なり、AmazonはBowkerのデータに出版社から提供される表紙画像や目次、索引、サンプルなどのデータを追加することで、データベースを徹底的に拡張していった。さらに重要なのは、これらのデータにユーザーがコメントを加えることを可能にしたことである。10年たった今では、BowkerではなくAmazonが書誌情報の主要な情報源となっており、消費者だけでなく、学者や司書もAmazonのデータを参照している。また、Amazonは「ASIN」と呼ばれる独自の識別番号も導入した。ASINは書籍のISBNに相当するもので、Amazonが扱う書籍以外の商品を識別するために利用されている。事実上、Amazonはユーザーの供給するデータを「積極的に取り込み、独自に拡張(embrace and extend)」したのである。

 これと同じことを、MapQuestがしていたらどうなっていただろうか。ユーザーが同社の地図と経路情報にコメントを加え、幾重にも付加価値を加えることができるようにしていたら、同じ基礎データを手に入れるだけで、他社がこの市場に参入することはできなかっただろう。

 最近登場したGoogle Mapsは、アプリケーションベンダーとデータ供給者の競争をリアルタイムで観察できる場となっている。Googleの軽量なプログラミングモデルを利用して、サードパーティがさまざまな付加価値サービスを生み出しているが、これらのサービスはGoogle Mapsとインターネット上のさまざまなデータソースとを組み合わせたマッシュアップの形を取っている。Paul Rademacherの housingmaps.comは、Google MapsとCraigslistの賃貸アパート/売家情報を組み合わせたインタラクティブな住宅検索ツールだ。これはGoogle Mapsを利用したマッシュアップの傑出した例ということができる。

 今のところ、これらのマッシュアップの大半は、ハッカーによる斬新な試みの域を出ていないが、そのすぐ後ろでは企業家たちが列を成して、好機をうかがっている。少なくとも一部の開発者の間では、Googleはすでにデータソースの座をNavteqから奪い、最も人気のある仲介サービスとなっている。今後数年にわたって、データ供給者とアプリケーションベンダーの間では競争が繰り広げられることになるだろう。Web 2.0アプリケーションを開発するためには、特定のデータがきわめて重要な役割を果たすことを、双方が理解するようになるからである。

 コアデータをめぐる争いはすでに始まっている。こうしたデータの例としては、位置情報、アイデンティティ(個人識別)情報、公共行事の日程、製品の識別番号、名前空間などがある。作成に多額の資金が必要となるデータを所有している企業は、そのデータの唯一の供給元として、インテル・インサイド型のビジネスを行うことができるだろう。そうでない場合は、最初にクリティカルマスのユーザーを確保し、そのデータをシステムサービスに転換することのできた企業が市場を制する。

 アイデンティティ情報の分野では、PayPal、Amazonの「1-click」、大勢のユーザーを持つコミュニケーションシステムなどが、ネットワーク規模のIDデータベースを構築する際のライバルとなるだろう(Googleは携帯電話番号をGmailのアカウント認証に用いる試みを始めた。これは電話システムを積極的に採用し、独自に拡張する一歩となるかもしれない)。一方、Sxipのような新興企業は「連携アイデンティティ(federated identity)」の可能性を模索している。Sxipが目指しているのは、「分散型1-click」のような仕組みを作り、Web 2.0型のシームレスなアイデンティティ・サブシステムを構築することだ。カレンダーの分野では、 EVDBがwiki型の参加のアーキテクチャを使って、世界最大の情報共有カレンダーを構築しようとしている。決定的な成功を収めた新興企業やアプローチはまだないが、こうした分野の標準とソリューションは、特定のデータを「インターネットOS」の信頼できるサブシステムに変えることによって、次世代アプリケーションの登場を可能にするものとなるだろう。

 データに関しては、プライバシーと著作権の問題にも言及しておかなければならない。初期のウェブアプリケーションは、著作権をあまり厳密には行使してこなかった。たとえば、Amazonはサイトに投稿されるレビューの権利が同社に帰属すると主張しているが、その権利を実際に行使しなければ、ユーザーは同じレビューを別のサイトに投稿するかもしれない。しかし、企業はデータ管理が競争優位の源泉となることを認識しつつあるので、今後はデータ管理がこれまでよりも厳しく行われることになるかもしれない。

 プロプライエタリなソフトウェアの興隆が、 フリーソフトウェア・ムーブメントをもたらしたように、プロプライエタリなデータベースの興隆によって、今後10年以内にフリーデータ運動が起きることになるだろう。反動の兆しはすでに現れている。WikipediaやCreative Commonsなどのオープンデータプロジェクト、サイトの表示をユーザーがカスタマイズできるGreasemonkeyなどのソフトウェアプロジェクトはその一例だ。

オライリー・ジャパン

特集

アップルが進める「製品の移行」--CFOの発言をめぐる憶測
米国時間7月21日の業績発表でアップルの最高財務責任者(CFO)が述べた「製品の移行」という言葉が、さまざまな憶測を呼んでいる。
10代の若者と携帯が鍵--米国広告市場における今後の流れ
日本と同様、米国でも10代の若者の間では携帯電話などの携帯端末が主流になりつつある。この流れに着目する企業側は、次の一手を考えている。

オピニオン

■インタビュー

「ニコニコ動画を日本のインフラにする」--夏野氏がニコニコ動画に参画した理由「ニコニコ動画を日本のインフラにする」--夏野氏がニコニコ動画に参画した理由
iモードの育ての親として知られる元NTTドコモの夏野剛氏が、新たな活躍の場としてニコニコ動画を選んだ。夏野氏の参画でニコニコ動画はどう変わるのか、夏野氏とニワンゴ取締役の西村博之氏(ひろゆき)に話を聞いた。
ゲームソフト会社から見たiPhoneの魅力--「ここまで整ったプラットフォームは世界初」ゲームソフト会社から見たiPhoneの魅力--「ここまで整ったプラットフォームは世界初」
7月11日、ついにiPhoneが発売され、アプリ販売サイト「AppStore」がオープンした。iPhoneの本当の魅力はどこにあり、今までの携帯電話やゲーム機とは何が違うのか。ハドソン執行役員の柴田真人氏に聞いた。

■コラム

ゲーム市場の台風の目と期待されるカプコンゲーム市場の台風の目と期待されるカプコン
全般軟調相場が続いている東京株式市場の中で、ここにきて逆行高の兆しをみせているのがゲームソフト大手のカプコンだ。
オリンパス、第1四半期決算好調観測--円安も追い風にオリンパス、第1四半期決算好調観測--円安も追い風に
東京株式相場が深刻な下げに見舞われている中にあって、比較的堅調な値運びをみせているのが好業績も期待できるオリンパスだ。
今こそ求められるフリービジネスのデザイン・スキル今こそ求められるフリービジネスのデザイン・スキル
インターネット上の多くのサービスは、無料で提供されている。エグジットを狙ったビジネスデザインでありながらも、それなりの評価を得ているサービスは多々ある。その理由として、無料サービスを可能にするビジネスモデルが成立しているからだ、といわれる。

企画特集

DELLが掲げる「新・仮想化アセスメントサービス」DELLが掲げる「新・仮想化アセスメントサービス」
〜企業システムの仮想化環境の構築を支援〜

ブログネットワーク

アルファブロガー

外資系エグゼクティブの日々今アーキテクチャが面白い
外資系エグゼクティブの日々
クロサカタツヤの情報通信インサイトインターネットのリュミエール
クロサカタツヤの情報通信インサイト
平野敦士カールのアライアンスInsightGoogleお前もか?
平野敦士カールのアライアンスInsight
江島健太郎 / Kenn's ClairvoyanceiPhoneという奇跡
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」サミット、サミット、そして今こそ!公衆無線LAN
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」
佐々木俊尚 ジャーナリストの視点暗黙共同体へ−秋葉原事件で考える
佐々木俊尚 ジャーナリストの視点

読者ブロガー

レンタルサーバの裏事情サーバトラブル事例(2)
レンタルサーバの裏事情
朝之丞のTry and TestedGoogle Lively試してみました。
朝之丞のTry and Tested

リサーチ

■リサーチコラム

iPhoneのニーズに関する調査--積極的なキャリアは、ソフトバンクとドコモユーザー
iPhoneのニーズに関する調査を実施したところ、「ドコモユーザーはやや積極的」「auユーザーはやや消極的」という結果が出た。また、AppleユーザーのiPhone購入検討率は、一般ユーザーの2倍以上ということも明らかになった。
クロスメディアに関する調査--「○○と検索」で最も利用する広告、実はフリーペーパー
クロスメディアに関する調査を実施した結果、「○○と検索してください」としてウェブへ誘導する手法としては、テレビCMが最も受け入れられていることが分かった。
10代男女の消費行動に関する調査--10代の消費意識にも不況の波が来ている?
10代男女の消費行動に関する調査を実施したところ、男性は「アルバイトをする」や「ガマンする」など極端な意見が出たが、女性はコツコツと努力する傾向が強いことが明らかになった。

■調査レポートダウンロード

Alloraでレガシー・スクリーン・データを構造化されたRDBMSにリアルタイムでエクスポート
NetManage社のOnWebソリューションとHiT Software社とそのAlloraデータベース・マッピング製品を組み合わせることにより、非構造化したレガシー・スクリーン・データを構造化されたRDBMSにリアルタイムでエクスポート

■調査発表

調査結果「両親の誕生日、正しく言えるのは7割。恋人・子供は9割が言える」
振り込め詐欺の電話を受けたことがある人は全体の15%。身に覚えのない支払督促メールは25%に上る。 - 振り込め詐欺について調査
調査結果「セブン、ファミマ、マルK…コンビニの一般的な略称調査」

イベント情報

ERP教室 〜ERP導入検討、及び情報収集されている企業様向け!ERPでできることについてGRANDITを使ってご紹介〜
主催:日商エレクトロニクス株式会社
超実戦マーケティング徹底講座
主催:株式会社新社会システム総合研究所
朝礼担当者養成講習会
主催:NBCコンサルタンツ株式会社

CNET Japan セレクション

フォトレポート:分解、アップル「iPhone 3G」
CNET News.comの姉妹サイトであるTechRepublicは、7月11日に発売されたばかりの「iPhone 3G」を早速分解し、その様子を紹介した。
ちょっと変わった「iPhone」向けアプリケーション10種
「iTunes」のApp Storeでは、「iPhone」向けのさまざまなアプリケーションが販売または無償で提供されているが、中にはちょっと変わったアプリケーションも存在する。
契約してわかった、iPhoneのさまざまな注意事項
7月11日にソフトバンクモバイルから発売された、アップル製携帯電話「iPhone 3G」。その契約手続きの中で、機種変更時の料金やメールの保存期間など、iPhoneが持つさまざまな注意事項が見えてきた。
フォトレポート:米陸軍が表彰した2007年の技術
米陸軍は毎年春、前年の優れた発明を発表している。このフォトレポートでは、選出された2007年の優れた発明を写真とともに紹介する。
30日間、完全無防備でインターネットを利用したらどうなる?--マカフィーが実験
マカフィーは、スパマーが心理的な計略を使ってインターネットユーザーをだましており、しかもその手法は進化を続けていることがわかったと発表した。
フォトレポート:ゲーム見本市「E3 2008」--MS、任天堂、ソニーなど主要プレスカンファレンス
米国時間7月15日からロサンゼルスで開催されているゲーム見本市「E3」。マイクロソフト、任天堂、ソニーが開いたプレスカンファレンスの模様を写真で紹介する。

今日の見どころ

アナキン子役やベイダーの中の人が来日--スター・ウォーズ出演者のいま

時代を振り返る--「MS-DOS 4」のインストール

伊東美咲さんらが浴衣でアピール、WoooケータイW62Hの魅力

レビュー

[レビュー]高い信頼性を普通に使う地球に優しい電源ユニット--Antec EarthWattsシリーズ EA-650
“自作ユーザーは、電源ユニットに何を求めるのか?”出力なのか、安定性なのか、それとも機能性なのか?難し
オンリーワンの個性を極めた超薄型テレビ--日立 Wooo UTシリーズ
日立製作所の超薄型液晶テレビWooo UT 770シリーズは2008年6月にラインアップが増強され、さらに日立らしい
[レビュー]“この手があったか”と思わせるパワーユーザーも納得のPCオンデマンド--「VALUESTAR G タイプR Luiモデル」+「Lui RN」詳細レビュー
「VALUESTAR GタイプR Luiモデル+PCリモーター」は、設置場所にとらわれずにPCを使える、NECが新しく提案
[レビュー]テレビを持ち歩ける最強ツール--ソニー、Blu-rayレコーダー「BDZ-A70」
加速度的に製品の認知度を普及させているBlu-rayレコーダー。その高画質、長時間録画という製品特性に「お
今週の新製品総チェック:ソニー「VAIO」が新キーワードを発表、ビクターからはYouTube対応ビデオカメラ
[レビュー]ネットワーク対応の高機能デジタルフォトフレーム--ソニー「Canvas Online CP1」
15時間の行列で手に入れたiPhone 3Gファーストインプレッション--ソフトバンクモバイル「iPhone 3G」
今週の新製品総チェック:まさにiPhone一色の1週間、ついに店頭発売へ
北京を見逃すな!--2008年夏、今買うべき「薄型テレビ」

CNET_ID

メンバー限定サービスをご利用いただく場合、このページの上部からログイン、またはCNET_ID登録(無料)をしてください。