企業が成長する過程では、けっして経営者1人の努力だけでは無理だろう。資金はもとより、経営に関するアドバイスなどさまざまな支援が必要になる。こうした役割を担うひとつがベンチャーキャピタル(VC)だが、経営者とVCはどのようにして出会い、具体的にどういう関係を構築していくのか、そして人物像は。
IBM Venture Capital Group日本担当の勝屋久氏が、日本で活躍するVCを紹介する形式で追い、VCと経営者両者に直接対談し、リアルにお伝えします。特に成長をめざすITベンチャー経営者の方、将来ITベンチャー経営者を志す方、若手VC、将来VCを志す方、ベンチャー業界に携わる方、そして事業会社の新規事業や事業開発、コーポレートベンチャー、ベンチャー企業との協業を担当する方は必見です。
第1回は、VC業界で数多くの実績を残すGlobis Capital Partners パートナー仮屋薗聡一氏と、2005年10月にジャスダックへ新規上場を果たしたユニバーサルソリューションシステムズの代表取締役社長である山口浩行氏の登場です。
勝屋:仮屋薗さんはこれまでベンチャーキャピタル業界で数多くの実績を残していらっしゃいますが、仮屋薗さんがパートナーを務めるグロービス・キャピタル・パートナーズについてお聞かせください。
仮屋薗:日本ではほとんどのベンチャーキャピタルが金融機関の子会社、もしくは関連会社としてやっていますが、グロービス・キャピタル・パートナーズは独立系のベンチャーキャピタルで、その中ではおそらく国内最大だと思います。ベンチャーキャピタルを始めてもうすぐ10年。やっと一人前になれたかなという感じですね。今、海外の機関投資家さんを中心にお金をお預かりして200億のファンドを運用していますが、資金調達、そして投資先の展開も含めて、グローバルな視点で投資及び支援を行っています。
投資の戦略や手法の特徴をひとことで言うと、選択的に良い会社を探索して、そこに金額的にも大きく、そして投資担当者の時間、コミットメントも大きく投資をしていくやり方ですね。使い古された表現で言えばハンズオン。単なる資金面だけでなく、人、知恵、様々なネットワークを提供して企業価値を上げていくお手伝いをする、ということを投資のスタイルとしています。
勝屋:とくにフォーカスしている投資分野はどちらででしょうか?
仮屋薗:会社全体でフォーカスしているのは、基本的には成長産業。成長産業というのは時代によって移り変わっていきますが、今、最もフォーカスしているのはやはりITの分野です。投資先の約5割がITになってます。それから選択的にテクノロジー、新しい技術開発の分野ですね。あと、日本は世界でも2番目にGDPが高い、内需が多い国ですから、日本国内でのサービス産業規模は大きいです。そういう意味では新しいサービス分野、たとえば金融サービスや環境リサイクルなどの分野にも投資を開始しています。私自身は主にITにフォーカスしていますね。
勝屋:ユニバーサルソリューションシステムズ様のケースは、これまで仮屋薗さんが手掛けてらっしゃったアーリーステージでのハンズオン投資とは違い、上場企業のグループ会社・関連会社への投資(デベロップメントキャピタルまたはカーブアウト投資でしょうか?)と思うんですが、投資に至った経緯をお話して頂けますでしょうか?
仮屋薗:私にとっての2000年頃のソフトウェアの投資案件では、ワークスアプリケーションズとリアルコムという2社で、ERPとナレッジソリューションの会社を支援させてもらったんですが、その後、どういうITのトレンドが流れてくるのかと考えていました。その頃、SAPを含めてIPをライセンスで販売していく事業が大きなトレンドになったと思うんです。でも、マーケットが一巡すると、今度はそれをメンテナンスするステージに代わって、成長がストップしてしまう。
当然、ライセンス販売という点では成熟期に入って、ITのサービス化、ASP、BPOという流れが来るはずだと、2000年の最初の頃に感じていたんですね。それで2001年くらいからASPの会社をいろいろ探したんですが、なかなかマッチする会社を見つけられないまま時間だけが経過していたんです。そんな時、2003年の10月にまったく別の案件でベンチャーリンクさんとお仕事する機会があったんです。その案件自体は私自身がフォーカスしている部分とは違ったので、一通りグループ会社、関連会社を見せて頂いただけなんですが、その中で素晴らしいと思ったのが、当時のベンチャーリンク・コミュニケーションズさんだったというわけです。
勝屋:山口さんから見て仮屋園さんの最初の印象はどうだったんですか?
山口:正直、面倒くさいことになったと思いました(笑)。というのも、僕は僕で事 業を始めるつもりで会社を辞めようと思っていたんです。そんな時に投資の話ですからね。それで最初はイヤだと言ったんですけど、頼むからと言われて…。圧倒されました(笑)
仮屋薗:独立してもテイクオフまで時間がかかると思ったんです。それよりもこのプラットフォームを切り出して山口さんの自由度の高い経営組織にしてやった方が、絶対にうまく行くと思ったんですよね。
山口:そのためには全面的にバックアップするからと言われたので、じゃあやろうかという話になったんです。そこからは早かったですよね?
仮屋薗:ベンチャーリンクさんとイコールのパートナーとなって、本当にIPOを目指していく体制を内部から、そして外部からも築いていこうと思いました。自分としてはまず最初に15%の出資、買取をしてオブザーバーで入ったんです。ベンチャーリンクさんが親会社であることはかわりはないんですが、買い取る以上、IPOを目指しますということを投資契約の中に入れて、相互に確認して進めていった感じですね。
それから半年くらいして、株主割り当てという形で我々もさらに出資し、シェアが20%弱くらいになりました。役員になったのはこの時ですね。その際、上場のスキームに合う経営体制にするということで、山口さんを然るべきタイミングで社長にすること、という条件で投資させていただきました。
勝屋:仮屋園さんがそこまでコミットして投資するには山口さんの人となりを判断した部分も大きいと思うんですが、最初の印象から含めて山口さんに対してはどういうイメージをお持ちでしたか?
仮屋薗:基本的にアプリケーションを作るということはソリューションなんですよね。中でも業務系のシステムというのは、効率化や人的なプロセスをシステムに置き換えるものだと思います。ところが、山口さんがやっていることは、効率化+ナレッジをアプリケーションに落として、それを使ってもらって売上げも伸ばしてる。この人は、現場の分析から入って、どうやったらそのオペレーションもしくは事業そのものが伸びるのか、そこをシステム化できる人だと思ったんです。こういう人はなかなかいないんですよ。本質的にその事業がうまくいくためにどうするかを考えて、機能に落として、それを使ってもらうことによってその会社を良くする。そういうところにセンスがあると思ったんです。それから山口さんはエンジニア出身なんですが、発想やモノの見方に経営的なセンスがあるんですよね。そういう人も珍しいです。
あともうひとつはビジョンで、最初から1兆円の企業を作ると言ってました。高い視点を持って経営ができる、もしくはそこを目指して歩むということは、会社の資質として重要な部分ですからね。このサービスおよびクオリティ設計、経営能力、ビジョンという3つが希有のバランスで、非常にユニークな存在でした。経営に関しては営業機能がなかったり、財務などに関しても弱かったりしましたが、そこは投資後に自分がやるべきことだと思ってました。
株式会社三和総合研究所でのコンサルティング、グロービスのベンチャーキャピタル事業設立を経て、現在は、株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズのパートナーとして、デジタルメディア、ITサービス、ソフトウェア関連の投資を担当。慶応義塾大学法学部卒、米国ピッツバーグ経営大学院修士課程修了(MBA)。著書 に「ケースで学ぶ起業戦略」(日経BP社)、「MBAビジネスプラン」(ダイヤモンド 社)、「ベンチャーキャピタリストが語る起業家への提言」(税務研究会)がある。
趣味:サーフィン、ヨガ、テニス
出資先(取締役就任先):ネットエイジ、フィスコ、(大証ヘラクレス 3807)、GDH(東証マザーズ 3755)、リアルコム、ユニバーサルソリューションシステムズ(ジャスダック 3390)、ドリームコーポレーション
1985年4月アールシステム株式会社入社、1988年4月株式会社岡山システムサービス入社、1990年4月エム・アイ・オー株式会社取締役、1991年4月デューイ・コーポレーション株式会社代表取締役、1994年5月株式会社サンマルク入社、1999年5月当社入社 取締役就任、2003年12月当社常務取締役就任、2004年7月当社代表取締役社長就任(現任)
趣味:日本酒、ワインにこだわり、みずから東京吟醸酒会を主宰
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