前回の記事では慶應義塾大学環境情報学部専任講師の南政樹先生に「スーパーユーザーが減っている」という視点でお話を伺った。今回はこれからのキャンパスネットワークを考える上での方向性がテーマだ。デジタルキャンパスのインフラとしてのキャンパスネットワークは、SFCではSFC-CNS(Campus Network System)と呼ばれている。まずこのCNSについて簡単に紹介する。
CNSではSFCに在籍する学生や教職員全員がアカウント(SFCでは“ログイン名”と呼ばれている)を持っており、学生向けのログイン名に学籍番号の一部とイニシャルから作られる。ちなみに僕が学部の時代には「t99851tm」というログイン名だった。そしてこのログイン名を使ってCNSにログインすると、ウェブ公開も可能な1GBのホームディレクトリやログイン名そのままの電子メールなどを利用することができる。また学校内にはメディアセンター(図書館)や特別教室にワークステーションやMacなどが設置してあって、CNSのログイン名を使って利用することができる。
僕が入学した1999年頃に特別教室にあったマシンはSunのワークステーションで、情報処理の授業ではこのUNIXのホストが1人1台ずつ割り当てられて、グラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)とは無縁のコマンド作業をしたりメールを書いたりしていた。ところが最近のリプレイスでこの特別教室のマシンが変わってしまったそうだ。しかも、普通のキャンパスではあり得ないような構成で。
「現在SFCの情報処理の授業で使う教室には、1つの席にLinuxとWIndowsのパソコンが2台設置してある」と南氏。つまり1人に対してOS別に2台のパソコンがスタックしてあり、ディスプレイ・マウス・キーボードを切り替えて使うようになっているのだ。「デュアルブートにすることも考えたが、システムが煩雑になってしまう上、コスト的にも2台ずつ導入しても安くなる」(南氏)
とはいえ、そもそもLinuxとWindowsというOSを2つ揃えることが珍しいのではないか。その点について南氏によると「アプリケーションのニーズなどを考えるとWindowsマシンを揃えておく必要はあったが、コンピュータやネットワークの概念を教えるためにUNIXにも触れてもらう必要もある。議論は多々あったが、結果的に折衷案として両方揃えることにした」とのことだった。授業では両方に触れるようにしているという。ところが授業以外での利用動向を見ると、圧倒的にWindowsを中心に使われているそうだ。「Windows中心になって来た背景を突き詰めていくと、キャンパスにおいてコンピュータやネットワークが存在していて利用することができるという点から、サービスやアプリケーションなどをどのように活用できるかという点へと、ニーズが移ってきている現れとして見ることができるのではないか」(南氏)
「例えばメッセンジャーの普及と日常的な利用スタイルは、ノートパソコンのワイヤレスネットワークへの対応によって、キャンパスでのコンピュータ環境のパーソナル化が生み出した産物」と南氏は指摘する。「ネット上で活用できるサービスやアプリケーションが広まるスピードは驚くほど早い。これもキャンパスネットワーク上でメッセンジャーを使うことによって、情報流通経路が切り開かれたから、と見ることができる。メッセンジャーによってBlogやソーシャルネットワーキングサービスも広まりを見せているが、今度はこれらに乗ってキャンパス中の学生に情報やツールが広まることになるのではないか」(南氏)
これらのアプリケーションやツールは、ネットワークのインフラを使って行われていることにインターフェイスをつけて使いやすい状態にしている、つまりパッケージ化されているということができる。電子メールを例に取ると、UNIXのコマンドラインから直接サーバでメッセージを送ることができる。Windowsなどで動くメールソフトでは、サーバの設定だけすれば後はサーバとのコマンドのやりとりを見ることなくGUI上でメールを読み書きできる。更にサーバ設定までも隠してあるのがケータイだと言える。ケータイであろうが、電子メールを読み書きできることには変わりない。ところがキャンパスのインフラとしてはもう一歩踏み込む必要があると南氏は指摘する。
「確かにそのアプリケーションやサービスが広まることも重要だ。しかしパッケージ化すればするほど、ネットワークの使い方も限られてしまうことになる。いまある課題や現状の使い方から個別に試行錯誤していき、その仮定を共有したときに創発が起きる。そしてまた試行錯誤に戻る。そして最終的には洗練されてパッケージ化されるかもしれない。ネットワークに関してそんな循環するプロセスがある、つまりキャンパスインフラがその洗練の作業の場にならないだろうか」(南氏)だからこそ、SFCではある程度までパッケージ化されたWindowsだけでなくUNIXも教える必要があるのだろう。
そんな創発が起きるインフラとはどんなインフラなのだろうか。「必要なのはネットワークの“自由度”だと思っている。つまり考え得る可能性や使い方に対応するインフラを用意しておくことだ」と南氏は指摘する。例えばメディアセンターや特別教室以外の場所でもコンピュータが使えるように無線LAN環境を用意した。これによりコンピュータやネット環境のパーソナル化が進んで、学生にもメッセンジャーなどのアプリケーションやツールが普及した。「これからは高品位な映像の配信に耐えうる大容量のインフラやRFIDのインフラも考えられる。とにかく、自由に使える状態で用意することだ」(南氏)
知識やノウハウを共有して創発を生むべく、自由度が高いインフラであるという考え方のもと、今後もキャンパスインフラのアップデートが続いていく。
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