「自分たちが欲しかったツールを開発した」SFCの学生である船木信宏氏は語り始めた。彼は2人の仲間とともにReadOneというツールの開発を2003年夏にスタートさせている。「ブックマークを使ったウェブ閲覧は破綻していると思う」と船木氏は言う。「インターネット上にはこれまでもたくさんの情報があったし、Blogが登場してからはブックマークを使ったブラウズには時間がかかる。でも情報収集をたくさんしたい。ではどうするか。そこでReadOneを作った」(船木氏)
ReadOne - ニュースマイニングRSSリーダー |
ReadOneはASP型のRSSリーダー。ブラウザのブックマークと同様にこれまでのRSSリーダーも、RSSの登録数が増えてくると破綻してしまう。この問題を解決するために、ReadOneにはパーソナライズ機能がある。「何らかのフィルタリングが必要だと思った」と船木氏は開発の動機を明かしてくれた。
「ユーザーがクリックする記事のタイトルには、必ずそのユーザーが何らかの反応を示す、興味があるキーワードが含まれていると考えて、クリックするタイトルからキーワードを抽出して蓄積していきます。ReadOneに搭載されているパーソナライズ機能では、その蓄積を元に、新たに入ってきた記事の重み付けをしてポイントの高い記事を上位に表示させています。Internet Explorerのサイドバーにしたのは、お気に入り(ブックマーク)と同じインターフェイスだし、ブラウザと一緒に使うモノだから利便性が高いはずなので」(船木氏)
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また船木氏にはネット上で触れる情報からコミュニケーションを起こしたいという思いもあった。「小学生の頃、朝教室に行って一言目に「昨日のテレビ見た?」という話題から友達とおしゃべりし始めたのを覚えているが、それと同じ感覚だ。友人やその他の人が同じニュース記事を見た、ということを押しつけがましくなくツールがレコメンドしてくれたら面白いんじゃないか」さらに見る対象が友人の日記やBlogだったらどうなるか。自分たちの周りの話題や口コミの流行モノがものすごいスピードで駆けめぐることになり、やがて話題単位のコミュニケーションが友人間以外でも起きてくる可能性がある。
ところで、友人たちがみんなウェブ日記やBlogをつけ、お互いにそれを読み合っている状況では、久々に顔を合わせたとしても久しぶりとは思わないから不思議だ。またすれ違ったりした時に「元気?」「最近どう?」という声のかけ方はしなくなり、「ケータイ変えたんだって?」だとか「あのCDどう?」といった具合に、いきなり具体的な話題を二言三言交わすようになる。このようなシチュエーションは、ウェブ日記・Blogを介したコミュニケーションとしてSFCで日常茶飯事になっている。
「友人と話している距離感、半径5mほどの範囲で交わされる会話や知識、情報の流通が、自分のパソコンの画面から感じられるかどうかが目指したところだった」という船木氏だったが、実際に開発をするに当たっては、SFCの中の状況を意識していなかったそうだ。「ReadOneはフリーウエアとして配布していた。そうするとユーザーからの質問や改善点などが大量に寄せられるようになる。もちろんSFC内でもインターネット系の研究をしている人たちからウケが良かったが、それ以上にキャンパス外とのインタラクションがとても増えた。特にたくさんの人と出会ったことは一つの財産だ」と船木氏はSFCという土壌に関係なく、アウトプットを出していったことによって世界が広がっていった経緯を振り返る。
しかし「ReadOneはマニアックだった」と苦笑いをしながら船木氏は言う。「キャッチフレーズに“次世代のRSSリーダー”を据えていたが、今思うと先走りすぎていた感がある。そもそも世間一般から見るとRSSリーダーそのものが次世代で、パーソナライズやキーワード抽出などの機能がターゲットのユーザー層を狭めてしまっていたのではないか。SFCに身を置いているせいか、RSSリーダーをただ出しただけではあまりインパクトがないと思ってしまって…。何らかの付加価値をつけなければ、という気負いがあった。」
船木氏がReadOneに託したビジョンは次世代の、より使いやすくなるようなウェブの未来だったそうだ。「RSSのシンプルさは魅力的。そういうものを利用して、システムが情報を整理したりオススメしてくれたりするのは一つの形だと思う。ReadOneでその研究として開発に望んだし、それができた」(船木氏)。2004年の夏からRedCruiseを起業し、アカデミックからビジネスにフィールドに移してビジョンの追求をしていこうとしている。
「前のはマニアックだったんですが、今度のはかわいいなんて言われてるんですよ」と船木氏はデスクトップにeCruiserという新しいRSSツールを表示して紹介してくれた。eCruiserはニュースティッカー型で、一見RSSリーダーには見えない。「電光掲示板ってみんな好きですよね。ぼーっとしていても流れて見えるのが良い。これなら初心者も取っつきやすいインターフェイスじゃないかと思う」(船木氏)。
SFCの中と外、アカデミックとビジネスというそれぞれ2つのフィールドに接して、次第に自在なバランスを取りながら開発に携わるようになった船木氏から、次にいったいどんなソフトが送り出されるのか。そしてこれがどのようにして、SFCにフィードバックされてくるのか。楽しみなところだ。
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