最終更新時刻:2008年10月7日(火) 13時05分

デジタル時代ならではのキャンパスの存在意義

松村太郎

2004/06/24 10:01  

 SFCでは最近、「大教室での授業を学校内で行う必要があるか?」という議論が起きている。ブロードバンドの普及と、遠隔教育のシステムや教材の整備によって、ネットを介した授業のスタイルが確立されつつあり、100人から400人にもなる大教室や階段教室での授業を行う必要があるのかというものだ。SFCではそのネットワークの設備やノウハウを生かして、遠隔授業の実験や実践が多数行われている。

 例えば慶應義塾大学三田キャンパスや六本木アカデミーヒルズなど、他の場所や教室の授業の中継は日常茶飯事になっている。6月17日は竹中平蔵金融・経済財政政策担当大臣(慶應義塾大学総合政策学部客員教授)が六本木からSFCの授業に登場した。質疑応答もこなすなど学生と教員が同じ場所にいなくても、少なくとも教室の授業そのものについては成立しているようだ。

 中継だけでなく授業そのものをオンラインで行う取り組みの代表的な例は、1997年に取り組みが始まったWIDEプロジェクトのSchool Of Internet(SOI)。ネット上で学生証を発行。授業はビデオで配信し、課題はウェブサイト経由で提出する仕組みになっている。

 SFCの実際の大学で履修した授業がSOIの授業の場合、学生はSFCでの履修申告に加えてSOIでの履修申告(SOIを初めて使う人は入学手続きも)も行った上で、授業を受け始める。大教室で行われる授業はリアルタイム配信もしくは収録された内容のストリーミングがSOI上で流される。学生は授業が行われている教室だけでなく、大学内の別の場所や自宅でも授業を受ける事ができる。

 このノウハウはSFC Global CampusでSFCの更に多くの授業に拡張されており、無料で登録すると聴講することができるようになっている。学外の学習者の聴講や履修も視野に入れた取り組みになっており、これらの遠隔授業の試みは、既存の学習場所である教室の壁を取り払っていると見る事ができる。

 更に極端な例もある。授業「ネットワークコミュニケーション」では、ネコミ大学という全く別の大学を仮想空間上に設立している。ネコミ大学の上で124単位を揃えて卒業すると、SFCでの2単位が“単位認定”されるというストーリーになっている。履修する学生もヴァーチャルな存在として全てハンドルネームでネコミ大学の授業に参加する。ネットワーク上での学習経験の可能性を最大限に引き出す試みだ。

 また以前の記事で紹介したBlogについても、大学内の情報共有スピードを早めたり流通量を増やす効果がありそうで、大学のウェブスペースが巨大なデータベースになったり、オンラインでの効率や効果が高まる可能性がある。このようにネットワークに依存する形でSFCの授業や研究の形態が変化し始めている。

 学習環境がオンライン化されていく中で、逆の動きも出てきた。オンラインでできる事はオンラインでやり、実際のキャンパスではリアルでしかできない事をしようというものだ。

 オンラインではできない、あるいは効率の悪い授業のスタイルもある。例えば30人規模で学生間のディスカッションをするような場合では、文字でのチャットやビデオチャットでは、議論の盛り上がりやライブ感が失われてしまうし、なにより同じ議論を教室で口頭のディスカッションをするより時間がかかりそうだ。あるいは何か共同作業を行う際、例えば一つのもの一緒を作ったりするような場合は、やはりオンラインでは無理になる。こういう授業は大学で行われるべきかもしれない。

 SFCには学習の場のオンライン化を見越したオフィスアワー制度が設立当初から存在していた。オフィスアワーとは教員があらかじめ設定しておいた曜日・時間・キャンパス内の場所を公表して、そこにいるというものだ。学生が教員と会いたい時、教員同士が話す時などにスケジュールを押さえる必要がない時間という事になる。教員と相談や議論などのコミュニケーションを取るには、今でこそビデオチャットなどがあるとはいえ、顔を合わせた方が良いという示唆だったと考えられる。

 もちろん全てに関して“現在の技術では”という但し書きが付くかもしれない。しかしいくら技術が発達したとしても同じ場を共有するのと同等の効果が得られない可能性もある。裏を返せば遠隔授業や協調作業のツールやアプリケーションを開発していくにあたって、場の空気のようなものを通信で共有することを考慮するべきである事を示しているとも言える。

 SFCは「遠い」というイメージや実際の通学時間の長さから、学生は授業がある日に授業のためにしか学校に来ない。あるいはサークル活動やゼミがある日しか学校に遅くまで残らない。また昼休みも長くて20分しかないため、サークルやゼミで顔を合わせる以外の友人とはメールやメッセンジャーなどのオンラインでのコミュニケーションを取るしかなくなる。

 こういった状況の中で、教員だけでなく学生にとっても、オフィスアワーのようにどこかに常駐していることに意味があるのではないかという意見が学生の間から出てきている。学生や教員が自由に出入りできるカフェに、何らかの形で「自分がこの時間に滞在して、この話題を話したい」というアピールをしておく。そのアピールを知った人も知らなかった人も、カフェにきたらその話題で花を咲かせる。普段話さないキャンパス内の人と話すきっかけとなる場があれば良いのではないかという考えだ。

 これは、ちょうど1年前にヘルシンキ芸術デザイン大学のコッコネン先生が説明してくれた、コーヒーを飲む習慣を元にしたフィンランドのサブカルチャー「アウラスペース」を彷彿とさせる。アウラスペースとは会話やアイディアを自ら発散していく独特の雰囲気を持った場のことだ。例え相手が友人ではないとしても、テーマという共通項で議論をしたいという意識。日常をオンラインに頼っているSFCだからこそ、リアルな場に別の意味付けや刺激が必要ではないかという提案だった。

 他のキャンパスでは1時間程ある昼休みや午後の食堂などが、そういったコミュニケーションの場になっているそうだ。アウラスペースが欲しいという欲求は、普段からのフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションの不足に対するアレルギー反応なのかもしれない。

特集

経済危機時代の技術起業家たち--変えるのは製品ではなく戦略
経済危機のただ中にある現在、新興企業の資金調達は厳しくなっているが、起業家たちはこの状況でも楽観的だ。
グーグルの米国エネルギー問題解決策--22年計画「Clean Energy 2030」の内容
自社での節電を積極的に進めているグーグルが、米国政府に国内のエネルギー問題を解決する計画を提案した。

オピニオン

■インタビュー

Windows VistaにとってXPはライバルか?--マイクロソフト グローバルマーケティング担当Brad Brooks氏Windows VistaにとってXPはライバルか?--マイクロソフト グローバルマーケティング担当Brad Brooks氏
コンシューマー市場向けの取り組みを強化すると発表したマイクロソフト。日本におけるWindows VistaやWindows Media Centerの現状をどう見ているのか、コーポレートバイスプレジデントのブラッドブルックス氏に話を聞いた。
「iPodを日本で一番売りたい」--ビックカメラ有楽町店に聞く新iPodの魅力「iPodを日本で一番売りたい」--ビックカメラ有楽町店に聞く新iPodの魅力
発表後初の週末となった9月13日に、新iPodファミリーの店頭イベントを開催したビックカメラ有楽町店本館で、店長の石川勝芳氏に、iPodの販売状況と店内での取り組みについて伺った。

■コラム

ユーザー中心アプローチの時代ユーザー中心アプローチの時代
企業におけるネットマーケティングの成否の分かれ目は、ユーザ行動特性の理解と「ユーザ中心」に基づく戦略・設計にある。ビービットの500を超えるユーザビリティコンサルティングの実績をもとに、ビジネス成果を最大化するネットマーケティングの本質に迫る。
台頭するスーパーインフルエンサー--Universal McCann調査より台頭するスーパーインフルエンサー--Universal McCann調査より
Universal McCannが調査報告で論じた「新たなスーパーインフルエンサー」の台頭。ここでは、インターネットだけでなく実世界でも大きな影響を及ぼすスーパーインフルエンサーについて検証する。
松下からパナソニックへ--第2の創業で3年ぶり安値から切り返すか松下からパナソニックへ--第2の創業で3年ぶり安値から切り返すか
創業90周年を期して“第二の創業”と位置づけている松下電器産業は10月1日に社名を「パナソニック」に変更するが、株価は3年ぶりの安値水準に沈んでいる。

企画特集

KDDI「SaaSソリューション」KDDI「SaaSソリューション」
〜社内コミュニケーションの課題への解決策とは〜
エンタメCGM「gooメーカー☆メーカー」エンタメCGM「gooメーカー☆メーカー」
【第1回】開発者に訊く!各機能と開発の狙いとは

ブログネットワーク

アルファブロガー

外資系エグゼクティブの日々I am Jamming!
外資系エグゼクティブの日々
村上敬亮 情報産業の未来図ネットワーク型産業構造への衣替え?
村上敬亮 情報産業の未来図
クロサカタツヤの情報通信インサイトグッバイ、レバレッジ!(1)
クロサカタツヤの情報通信インサイト
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」9月イベントお知らせ
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」
ケータイ時代のスタンダードiPhonista Nightの事後報告
ケータイ時代のスタンダード
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance新サービスをローンチしました
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance
鈴木健の天命反転生活日記パラレルワールドとしての電脳コイル
鈴木健の天命反転生活日記

読者ブロガー

オープンソースCMS GeeklogがWEBの標準になる日OSC2008Tokyo/Fallで勉強会大集合開催
オープンソースCMS GeeklogがWEBの標準になる日
インターネットの裏側を探しましょ月5000円を得るための代償
インターネットの裏側を探しましょ
ネットのニュース.logiPhone2.2では、絵文字に対応?
ネットのニュース.log
それでも開発は続くよすでに土砂降りのIT業界
それでも開発は続くよ

リサーチ

■リサーチコラム

薬事法規制の厳しい健康食品に代わり、増え続ける化粧品メーカー
薬事法規制が厳しくなる今、特に規制が厳しい健康食品にかわって化粧品を販売しようとする企業が増えている。そこで、覚えておきたい化粧品と薬事法の関係について簡単にまとめた。
携帯電話の待ち受けに関する調査--最も利用される画面は「自分で撮影した写真」
携帯電話の待ち受け画面に関する調査を実施したところ、10・20代は飽きやすく待ち受け画面を頻繁に変更する傾向にあり、30・40代は季節感や臨場感を重視することが明らかとなった。
電子マネーによるライフスタイルの変化に関する調査--電子マネーコアユーザーは、高所得者層
電子マネーによるライフスタイルの変化に関する調査したところ、電子マネーを活用するのは高所得者層に多く見られた。また、1度に1万円以上チャージするユーザーは10%強であることも明らかになった。

■調査レポートダウンロード

中小企業における情報セキュリティ対策の問題点とその解決策としてのUTM
NECソフトアンケートレポート 次世代ネットワークNGNに期待することは?

■調査発表

調査結果「成人の適齢は?『20歳』4割半、『18歳』は2割半」
調査結果「携帯灰皿、喫煙者の9割が所有」
半導体光増幅器の世界市場予測と分析 2007-2012年

イベント情報

コンプライアンス基礎講座(標準編)
主催:あずさビジネススクール株式会社
申告書作成のための税務実務
主催:あずさビジネススクール株式会社
申告書作成のための税務実務
主催:あずさビジネススクール株式会社

CNET Japan セレクション

ココが変わった、新型「ニンテンドーDSi」--「ニンテンドーDS Lite」と比較
任天堂が11月1日に発売する新型ゲーム機「ニンテンドーDSi」はどんな点が新しいのか。既存のニンテンドーDS Liteと比較するとともに、新機能を紹介する。
フォトレポート:本体が分離するNTTドコモの「セパレートケータイ」の謎に迫る
NTTドコモは家電展示会「CEATEC JAPAN 2008」において、端末が2つに分離できる携帯電話「セパレートケータイ」を展示している。どのような仕組みなのか、何ができるのかを、写真で紹介する。
話題のスマートフォン、写真で見るBlackBerry Bold
RIM製スマートフォン「BlackBerry」の新モデル「BlackBerry Bold」を2008年度第4四半期にも発売すると発表したNTTドコモ。話題のBlackBerry Boldを写真で紹介する。
こんなものもありました--CEATECで見つけたオモシロ新技術たち
幕張メッセで開催されている展示会「CEATEC JAPAN 2008」では、幅広い分野の最新技術が一堂に会している。ここではその中でもユニークな新技術や展示を紹介する。
「iPhone 2.2」アップデートの概要が明らかに--App Storeのインターフェースなど変更
アップルは、新たな「iPhone 2.2」アップデートのリリースに向けて準備を進めている。Safariに加え、App Storeのインターフェース変更などが予定されている。
ケータイはまだまだ進化する--CEATECで見た未来の技術
幕張メッセで開催されているデジタル家電の展示会「CEATEC JAPAN 2008」では、携帯電話関連の新技術が数多く展示されている。その様子を写真で紹介する。

今日の見どころ

こんなものもありました--CEATECで見つけたオモシロ新技術たち

ケータイはまだまだ進化する--CEATECで見た未来の技術

まるで「宇宙ケータイ」--太陽電池で発電する、au端末のコンセプトモデル

レビュー

[レビュー]2011年画質を備えた高画質、多機能Blu-ray--ソニー「BDZ-X95」
ソニーのBlu-ray Discレコーダー新製品が登場した。2007年から引き継がれる「やりたいことから選ぶ」シリー
今週の新製品総チェック:よりモバイルPCとして進化した「Let's note」が登場
松下電器産業の「Let's note」、デルのデスクトップPCとPC新製品が数多く登場した。Let's noteは9時間駆動
今週の新製品総チェック:フルサイズCMOS搭載のキヤノン「EOS 5D Mark II」が登場
キヤノンからもフルサイズCMOSセンサを搭載した「EOS 5D Mark II」が登場した。合わせてコンパクトデジカメ
今週の新製品総チェック:第4世代iPod nano登場、ソニー「α」、松下「LUMIX」に新機種も
デザインを一新したiPod nano、容量増されたiPod touchなど、新iPodファミリーが登場した。その後を追うよ

CNET_ID

メンバー限定サービスをご利用いただく場合、このページの上部からログイン、またはCNET_ID登録(無料)をしてください。