SFCでは学生の日常生活にBlogが定着し始めている様子を先週ご紹介したが、このブームは学生の間だけでは終わらなそうだ。
SFCでのBlogブームは複数の場所で同時発生的に始まった。アメリカでのBlogの社会的な影響を見てネット社会学の研究題材にしたグループ、手軽なコンテンツマネジメントシステムとして注目したゼミ、インターフェイスの研究対象として使ってみたゼミなど、きっかけはさまざまだったがBlogに対して注目が一気に集まったのが2003年の春だった。
Blogが普及していく中で生まれた問題意識の1つに、デジタルキャンパスであるといわれてきたSFCですら、キチンとした情報共有や情報交流がなされていないのではないかというものがあった。教員や学生全員がコンピュータを持ち歩いて使いこなしているからといって、必要な情報共有がキャンパス内で行われているのかという指摘だ。
SFCの学部は2つだけだが、カバーしている領域はとても広い。学生がわかりやすいよう領域毎にクラスターという分類を作ったが、その分類は15にものぼる。そんな研究室群が隣通しに配置されるのだ。「隣の研究室が何をやっているか分からない」という状況が往々にしてある。
研究で活用可能なツール、例えばコンピュータやネットワークのソフトウェアに関する情報やノウハウは、分野が違っていても共有する事ができるはずだ。詳しいゼミがノウハウを持っていたとしても、その情報を学内で共有できなければ、他のゼミが同じことをやる場合、また独自にノウハウを作ることになる。理系に属するゼミの場合は新しいツールを苦もなく使う事が出来るかも知れないが、文系寄りのゼミの場合は、いくらその有用性を見出したとしても、ハードルの高さに採用をあきらめるかも知れない。
その典型的なツールがBlogであり、解決策を見出したのもBlogだった。注目が集まった当初は日本語化もされておらず、導入が敬遠されがちだった。しかしいち早く注目したグループやゼミがお互いのBlogを見つけあい、コメントやトラックバックによる議論を重ねて、SFCの学生が誰でも簡単に導入できるようなガイドを作り上げた。分野の違うところに属する学生同士が行ったこの共同作業の結果、Blogが普及したと見る事ができるだろう。
何人かの教授もBlogに注目して設置している。授業の連絡や研究のアイディアメモなど使い方が様々なのは学生と同じだが、授業を担当している教授やゼミの先生の生のテキストが読める機会は今までなかったため、学生からの人気が高く、教授と学生との間でのインタラクションが起きている。
加藤文俊助教授のBlogには、研究への取り組みや日々思った事、興味のある作家や作品などをエントリーしている。例えば学生との面談から感じた面白さから学びのスタイルについて書くと学生や卒業生からコメントが入り、次の記事を催促されるほどだ。
またケータイ研究・無線通信が専門の小檜山賢二教授は自身のBlogに「IP電話」や「ケータイのなりすまし」などについて考えを書いていたところ、新聞や雑誌からの取材が急に集まり始めるなどの変化があったそうだ。その同じBlogには、趣味で本も出版した昆虫写真についてのコラムが書かれていて、雑誌にも寄稿している。ケータイと昆虫の共演に取材しに来た記者は驚いているそうだ。
教授がBlog上でインタラクションをしているのは、学生やマスコミだけではない。他の教授ともBlog上でディスカッションを始めている。小檜山教授がBlogに位置情報付きMoblogの可能性についての示唆をエントリーしたところ、ライフスケイプ・ネットワークコミュニケーションが専門の熊坂賢次学部長がコメントで反応を示してきた。早速それぞれのゼミで議論がスタートしている。
違う分野の教授同士が研究でコラボレーションをするきっかけをBlog上で、学生が見える格好で見出すとなると、研究で興奮すべきコラボレーションの瞬間がリアルタイムに学生に伝わり、学生も活性化して研究に取り組むようになる。
このコラボレーションのきっかけを体験したある教授は「(我々に)研究の道を見つけ出させて、アクセルを踏ませるツールだ」と表現している。教授のBlogに学生は大いに沸いているが、一番興奮しているのは教授本人かも知れない。
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