SFCの学生は入学当時からメールアドレスと1GBのディスクスペースがあるホームディレクトリが割り与えられる。メディアセンターや特別教室にあるパワフルなコンピュータで画像やビデオの編集をして、ホームディレクトリに保存。それをいつも持ち歩いているノートパソコンへダウンロードしたり、ゼミの仲間と作業を共有したり、というのは日常茶飯事になっている。
ウェブサイトの作り方も入学したての授業で習う。授業では基礎的な事しか習わないが、先輩や友人からウェブ日記や掲示板ツールを導入してもらって毎日更新するようになる。1998年頃からSFCにはウェブ日記文化が根付いており、筆者、日記のタイトル、が更新の新しい順にリストされる、SFCのウェブ日記専門のアンテナが用意されたくらいだった。
学生のウェブ日記の内容はかなり赤裸々である。人と話した、旅行へ行った等の日々の出来事から、恋人ができた、ケンカした、別れたといった恋愛関係まで書いていく。もちろん登場人物は実名ではなく、何となくぼやかして書いていくのだが、ゼミやサークルなどのコミュニティの中で複数のウェブ日記で事実が語られると、そのコミュニティにいない人でもその物事の全体像が分かってくる。しかし書いた本人たちは、知らない人には分からないだろうという心理で書いているのかも知れない。
日本でBlogブームが始まった2003年、SFCでもBlogが爆発的に普及した。新しい機能への可能性を感じたり、更新がより手軽になると言う点に着目して新たにBlogを設置した学生もいるが、今までのウェブ日記をBlogツールにリプレイスしたという学生も多かった。そのため使い方は様々で、授業のログ、気になったニュース、好きな本やCDから、先に挙げた日記まで、大量のテキストがウェブ上に載るようになった。
Blogの特徴の1つに、記事のアグリゲーション(収集)のしやすさがある。RSS等の更新情報により、以前のアンテナでは更新日時しか表示されなかったが、タイトルと概要まで表示されるようになる。またRSSリーダーを利用すれば、いつもチェックしているBlogの更新リストを取得でき、更新された記事だけを効率的に読む事ができるようになっている。
さらに最近では、前回ご紹介したソーシャルネットワーキングサービス上に、友人のBlogの更新情報も読み込まれるため、ソーシャルネットワーキングサービスをRSSリーダー代わりに利用している人も出始めている。そうなるとソーシャルネットワーキングへの依存度も高まっていき、友人関係の共有に留まらず、経験や知識の共有へと発展していく可能性がある。
経験の共有といえば先日面白い出来事があった。僕には以前からRSSリーダーに登録して読んでいるお気に入りのBlogが2つあった。書いているのはおそらく自分とは面識のないSFC関係者。ある日、その2つのBlogに「別れた」というエントリーが入っていた。偶然の一致か、それともこのBlogを書いている2人は付き合っていたのか、そんな疑問を僕は持った。その後数日間、別れに対する思いの丈がつづられていく。その様子がRSSリーダーに日々入ってくるのだ。やはり2人は付き合っていたのだと確信したし、まるで登場人物の両側の視点を別々に描いている恋愛小説を読んでいるかのような、少し不思議な感覚であった。
この不思議な感覚は決して僕だけのものではない。この2人をソーシャルネットワーキングサービス上で友人登録している人や、2人のBlogがRSSリーダーに登録されている人、さらにはBlogアンテナをたまたま眺めていた人ですら、同じようにこの不思議な感覚を覚える事になる。そして絶対やらないとしても、もしも第三者が2人の記事に同時にトラックバックを送ったとしたら、その関係がBlogの上で明示的に繋がってしまう事になる。
Blogツール以前でも、コミュニティの中での噂とぼやかして書かれたウェブ日記によって、恋愛話はだいたい皆が知るところになってきた。しかし、Blogによる個人の日常的記録の増加とRSSなどのインフラの普及、そしてソーシャルネットワーキング人口の拡大は、直接の知り合いではない近くの他人の日常をリアルタイムに配信してしまう。日常をネット上につづるデジタルキャンパスでの恋は、奥ゆかしさとは無縁のものなのかもしれない。
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