Yahooが検索エンジンを自社開発した理由

インタビュー:梅田望夫、撮影:Rick English
編集:瀧口範子、山岸広太郎(CNET Japan編集部)
2004年05月24日 10時00分

 2002年12月、米YahooはInktomiを買収した。さらに2003年7月にはAltaVisatとFAST(AlltheWeb)を買収していた米Overtureを買収し、着々と検索技術を社内に蓄積してきた。そして2004年2月、ついにYahooは検索サービスをGoogleからYahoo Search Technologyという自社開発のエンジンに変更し、Googleとの対決姿勢を明らかにした。Yahooがサーチエンジンを自社開発するに至った背景と今後の戦略について、Yahoo Search Technologyを率いるVish Makhijani氏に梅田望夫氏がインタビューした。


vice president & general manager, international search, Yahoo
Vish Makhijani氏
University of Connecticut卒業。Pricewaterhouse Coopersのニューヨークおよびシリコンバレー事務所を経てInktomiに入社。vice president & general managerとして同社のWeb Searchビジネスを率いる。Inktomi買収にともないYahooに移籍し現職。

梅田: この5年間のサーチエンジン業界の変化にはとても興味深いものがあります。あなたはInktomiに入ってからずっとこの分野の中心にいたわけですが、今の状況をどう見ていますか。

Vish: 私がInktomiに入ったのは1998年の12月です。非常に多くの変化がありました。私の考えでは私がInktomiに入った時期というのはサーチエンジンビジネスの第1期にあたります。

 Inktomiは7番目のサーチエンジンとして市場に参入したのですが、このときの課題は「検索」という数学的な問題をどうやって解くかということでした。多くの会社が科学的に検索に取り組んでいました。しかし、持続的なビジネスモデルというものがそこにはなかったのです。

 その後も技術的な進歩は続きますが第2期と言える変化が起きるのは1999年にOvertureが検索結果のリスティング広告で成功したときです。それまでどんなに使われても全然お金にならなかったものが、突如として魅力的なビジネスに変わりました。

 ウェブサーバーを買えばウェブサイトを立ち上げることは誰にでも出来ます。しかし、サーチエンジンの助けがなければ、多くの人にそのサイトを見てもらうことは難しい。ウェブの世界においてはサーチエンジンがメディアになり、このメディアにおける出版社的なビジネスモデルがリスティング広告だったのです。

Yahooが戦略転換をしたきっかけ

梅田: 2002年12月にInktomiの買収を発表するまで、Yahooが自分で作るのはディレクトリーだけで、検索部分はGoogleにアウトソースしていましたね。

Vish: そうなんです。たった18カ月前まで、Yahooにはサーチエンジンを担当する部署さえありませんでした。それが今では事実上4つの会社を買収し、Yahoo Search Technology(YST)という1つのサーチエンジンに統合するところまで来ています。

梅田: Yahooが戦略を転換したきっかけは何でしょう。

Vish: 2001年の秋にYahooがOvertureを試験的に導入しました。私の考えでは、Yahooはこの時サーチエンジンに大きなビジネスチャンスがあることを実感し、これが一連の戦略転換につながったのだと思います。

梅田: 逆に言えば、Yahooがそれまでこの市場に気づかなかったおかげで、Googleが成長できたという見方もできますよね。Yahooのサーチエンジンにおける初期の戦略はIBMのPC戦略と似ていると言う人もいます。IBMはOSをMicrosoft、MPUをIntelにアウトソースしました。

Vish: 確かにそういう見方もできるかもしれません・・・。

梅田: そして、Yahooはこの状況に気づき、出来るだけ早くその戦略を変えたと。この見方は合っていますか?

Vish: 私の見方はこうです。その時にYahooは納得できるレベルの検索結果を提供し続けられる力を持った会社を見つけ買収したのだと。つまりInktomiのことですが。

 正直に言って、以前はInktomiも含めてほとんどの会社に十分な能力がありませんでした。Inktomiの買収に先立って、Yahooは何度も何度もテストを繰り返しました。私も買収交渉の責任者としてそのテストに携わったのですが、そこで、自分たちの実力が十分なレベルにあることを実感しました。

梅田: なるほど。買収後の統合作業はどのように進んだのですか。

Vish: 私はYahooに移り、買収した4社を1つのチームに束ねる責任者を務めました。統合作業はかなり上手く行ったと思います。見れば分かるように、Yahooの中でかつてGoogleが入っていた場所にはYSTが収まっています。また、人材面を見ても主要メンバーのほとんどがYahooに残っています。これは統合が上手く行った何よりの証拠です。

梅田: 競合に移った人はいない?

Vish: ええ。誰も。

梅田: いずれにしても、Googleの台頭はポータルやMicrosoftにとってサーチエンジンの重要性を気づかせる警鐘になったと思うのですが。

Vish: Googleだけでなく「サーチエンジンビジネスの台頭」と言うべきでしょう。Overtureも同じくらい重要な役割を果たしたと思います。Googleがいくら台頭してきてもそれが金にならなければ誰も気にしなかったはずです。インターネットではサーチエンジンが重要なメディアになること、そしてそれがお金になることが明らかになり注目を集めるようになったのです。

梅田: しかし、現時点でサーチエンジンの機能を自社で持っている企業はそんなに多くないですね。Google、Yahoo、MSN・・・。せいぜい3〜4社です。

Vish: 確かにこの分野で競争をするには参入障壁が大きいと思います。特に知的能力(intellectual capability)の問題が大きいはずです。Yahooはこの業界のベストチームを集めてしまった訳で、競合企業にしてみれば、この点が一番大きな障害に見えるんじゃないでしょうか。

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