デジタルコンテンツ市場が拡大するにしたがって、従来の著作権がビジネスや技術と衝突する場面も見られます。法律の現場ではどのような議論がなされているのでしょうか。デジタルコンテンツと著作権事情に詳しいリーバマン法律事務所の石井邦尚弁護士にお聞きしました。
成井:マドンナが「リアルのビジネスで稼ぐので、CDなどはどうでもいい」と発言していましたが、デジタルはリアルのプロモーションに過ぎないというケースもありますね。こういった場合は著作権法の除外と言いたいかもしれない。試聴管理という意味のトラッキングも重要です。
石井:試聴管理も、利便性とともにユーザーの感情に配慮する必要があります。「Aさんが、このコンテンツを、いつ、どこまで見た」などという情報は、その人の思想、信条やライフスタイルなどにも関わる非常にセンシティブな情報で、ほとんどの人は、少なくとも個人が特定できる形で情報が蓄積され、利用されていくようなことは望まないでしょう。
こういったことにも配慮が必要で、社会的合意を得られるような技術の確立が必要ですね。DRMは非常に幅の広いもので、米国の大統領選挙を見ていると、近い将来には選挙にも活用されるかもしれないと感じました。コンテンツの場合では、改変を許すとオリジナルのアイデンティティを守ることができるのかという問題もあります。たとえば、選挙運動のために候補者が作成したコンテンツを、悪意のある人に勝手に作り替えられては大問題です。DRMでそうしたことも担保できるかもしれません。
成井:日本のアニメを英語に翻訳して売っている場合、いろいろ問題はあるはずなのですが、これまで殴り合いになるようなことになった例をあまり聞きません。
石井:きちんと権利処理がなされているものはよいのですが、曖昧な形で行っていると、いつ問題が発生するかわかりません。気をつけないといけないのは萎縮効果です。一度やっかいな問題があると続く人が恐れて手を出さなくなるということです。
いま求められているのは契約を曖昧にすることではなく、できることとできないことを事前に明確に契約で決めることです。現在は黙っていると著作権法で自動的に縛られてしまう。曖昧な契約は、当初の意に反して著作権法の入り込む余地を広げたり、かえって問題を複雑にしたりしかねません。
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