最終更新時刻:2008年10月7日(火) 19時25分

Yahoo! BBは本当に大丈夫か

田中 弦 (コーポレイトディレクション)

2003/06/12 10:04  

 総務省によると、※1日本のxDSL加入者数は2003年3月末時点で700万を突破した。昨年の3月から約450万増と急速な伸びを示している。一方、大手ISP15社のダイヤルアップ接続サービス加入者数は、2002年11月時点の※22129万をピークとして、2003年3月時点では約80万減の2047万となった。xDSLと、その他ブロードバンド接続サービスの急速な普及により、ついにダイヤルアップ接続加入者数が減少しつつある。

 今までインターネット接続のエントリー材として一般的であったダイヤルアップ接続に変わり、いよいよxDSL、FTTH、CATV等のブロードバンド接続が普及期に入った現われだろう。

高コストな街頭キャンペーンでシェアを伸ばすYahoo! BB

 中でも、Yahoo! BBの伸びはめざましい。2002年3月には50万加入と、NTT東日本、西日本とさほど変わらないものであったが、2002年8月にはNTT東日本のシェアを追い抜き、2003年4月時点での加入数は250万を超えた。

 その一方で、Yahoo! BBを運営するソフトバンクBB(旧BBテクノロジー)の営業利益は922億円の赤字となっている。街頭での大量の※3モデム無料配布による顧客獲得費用の増大と、減価償却費、コロケーション費用、広告宣伝費などの固定費の増大がその主な要因だ。この大幅な赤字拡大を受けて、昨今「本当に黒字転換できるビジネスなのか」「あんなにモデムを無料で配って大丈夫なのか」との報道が見受けられる。本稿では、Yahoo! BBの無料モデム配布の評価と、投資回収リスクについて考察してみたい。

通信ビジネスの基本は先行投資とシェア獲得

 まず、通信ビジネスの基本原則をおさらいしたい。携帯電話、ISPなどの通信ビジネスは、多額の初期投資を、ユーザーから徴収するわずかな会員費用を積み上げることによって、長期間かけて回収する仕組みである。

 したがって、ビジネス開始初期の赤字は当然のことと言える。例えば、携帯電話ビジネスにおいては、基地局や販売代理店へのインセンティブ等にかけた大量の投資をユーザーの月額費用により回収する仕組みをとっているため、どの携帯キャリアも事業開始初期においては大幅な赤字となっていた。ADSLビジネスも、この例に漏れることはなく、ソフトバンクBBの922億円の赤字も、事業開始初期の段階ではセオリー通りの出費と言えるのではないだろうか。

 ソフトバンクは、この大量の事業開始初期コストを、あおぞら銀行売却益1000億円と、モデム資産の流動化による資金調達190億円で賄うようであり、これらの資金調達が実現すれば、当面キャッシュフロー上の問題は無い。

 次に、現在のADSLビジネスの置かれている環境を考えてみたい。現在、日本のADSLビジネスは成長市場であることは、言うまでも無いだろう。ADSLを一度利用したユーザーは非常時接続環境から開放された常時接続環境を手に入れることができ、「以前のダイヤルアップ環境にはもう戻れない」と感じさせるほど付加価値が高いサービスである。加えて、一度ADSLサービスを利用すると、メールアドレス変更や再度の初期設定の煩わしさが発生するのでそう簡単に他社のサービスに乗り換える事が無い、スイッチングコストが高いサービスである。

ADSLは早いもの勝ちのビジネス

 したがって、他社に先駆けて多少無理をしてでもADSLユーザーを取り込めば取り込むほど有利になる「先着順」のビジネスだ、ということができる。加えて、このような「先着順」ビジネスだとするならば、加入の際の障壁を下げることによっていち早く顧客を取り込むことが、この事業にとって極めて重要な因子となる。このようなビジネス環境を踏まえた上でYahoo! BBのビジネスが投資回収可能であるかどうかを判断する必要がある。

 図1はNTT東日本、NTT西日本、ソフトバンクBBの累積シェア(折れ線グラフ)と、Yahoo! BBの、Yahoo! Japan経由から加入した加入者数と、Yahoo! Japan以外のチャネル、つまり街頭でのモデム配布からの加入や量販店からの加入者数の累積加入者数(積み上げ棒グラフ)を表している。

 2002年3月にはほぼ100%Yahoo! Japan経由であった加入者数は、2003年3月時点では実に62.4%が販売パートナーや街頭販売分の加入者数となっている。Yahoo! BBは、2002年3月よりヤマダ電機、ベスト電器とともに合弁会社を設立し、家電量販店チャネルでの拡販の布石を打ってきた。さらに、2002年11月より街頭での無料モデム配布を開始しており、量販店チャネルの成熟と、無料モデム配布が、Yahoo! Japanのシェア拡大に貢献したことは間違いない。Yahoo! BBは、Yahoo! Japan経由で既にインターネットを利用している先行ユーザーを取り込み、さらに量販店での拡販、モデム無料配布によって、今までインターネットを利用したことのないユーザーをも取り込んだことが伺える。

 図2は、Yahoo! BBとNTT東日本、西日本のADSL加入者数の前月比純増加入者数を表している。この図からも、2002年11月からのモデム無料配布開始時からNTT東日本、西日本の前月比純増加入者数を圧倒していることがわかる。

なぜNTTはモデム配布を行わないのか

 ではNTTはなぜモデム配布を積極的に行いにくいのだろうか。これにはYahoo! BBとの事業モデルの違いにあると考えられる。Yahoo! BBは、ISPとインフラ事業者がセットになった「統合型」事業者である。これに対してNTTは、インフラ部分はNTT東日本(西日本)、ISPは複数事業者、という具合に、「分業型」を採用している。

 「統合型」の強みは、他事業者との交渉を特に行わなくとも新規サービスを提供可能、というスピードと、インフラ部分とISP部分の両方の売上を得ることができることにある。この高利益構造によって、販売活動のどこに資源を投入するか、もしくはどこを絞るのか、NTTよりもある程度自由に決定できるはずである。

 これに対して、NTTは「分業型」を採用することによって、多くのISPの既存ユーザーを相手にすることができる、という優位性を持つ。したがって、モデムを無料配布せずとも既存ユーザーのダイヤルアップからADSLへの置き換えによってシェア拡大を図る、という目論見があったのではないだろうか。

 今のところは、Yahoo! BBのモデム配布による加入量が、NTTを上回っているようである。したがって、Yahoo! BBの無料モデム配布は、通信ビジネスのセオリー通りの動きをしている、とも言える。

NTTの事業モデルにも勝算はある

 しかしながら、NTTの事業モデルが間違っている、と判断することは現時点ではできない。なぜならば、ISPの既存ユーザーの置き換え余地はまだ大量に残されているためである。例えば、日本最大のISP、ニフティの全会員数600万のうち、ADSLユーザーは50万人に留まる。Yahoo! BBの無料モデム配布によって多少のユーザーが流出するとはいえ、NTTが最終的にブロードバンドインターネット接続サービス市場で勝つ、というシナリオも考えられる。

 それでは、果たしてYahoo! BBは投資回収可能な事業モデルなのであろうか。ソフトバンクの平成15年3月期決算時の発表では、2003年6月に課金者数200万を超え、顧客獲得費用を除いた損益分岐点に到達するとのことであった。この顧客獲得費用は、2002年上半期には約2万円であったが、2002年度下期では3万7000円に膨らんだ。これには、無料モデム配布が大きく影響しているものと考えられる。では、Yahoo! BBは顧客獲得に3万7000円かけても採算が合う事業モデルなのであろうか。

採算性の鍵を握るのは解約率とARPU

 ここで採算性のキーは第一に、解約率が考えられる。Yahoo! BBの解約率は、引越し時期である3月を除いて1%前後で推移している。これは、1顧客あたりのサービス期間が100カ月間ということを示している。したがって、Yahoo! BBの現時点での平均粗利は2000円であるから、2000円×100カ月で20万円回収できることになり、現状の解約率がこのまま変わらないとするならば、十分採算性のあるビジネス、ということになる。

 仮に競争環境の変化やFTTH等の代替サービスの登場により、解約率が5%にまで上昇すると、1顧客あたりのサービス期間は20カ月となり、2000円×20カ月で4万円の回収に留まる。これは、顧客獲得費用3万7000円とほぼ同額であり、競合環境の変化による解約率の上昇により、採算がとれなくなるビジネスになる危険性がある。

 第二に、ARPU(顧客1人当り収入)の低下である。日本の携帯電話は、2001年までは年間1000万台以上の加入者数を集めてきた。ところが、携帯電話の契約台数は7000万台を超え、日本人誰もが携帯電話を持つ世の中となった。現在、携帯電話キャリアが直面しているのは、ARPUの低下である。

 これは、日常的に携帯電話を使うヘビーユーザーを取りきり、ライトユーザーまで普及したことに起因する。現時点では、Yahoo! BBはBBフォン、BBTVなど新しいサービスを次々に打ち出しているため、急激にARPUが下がることは考えにくいが、ADSLが携帯電話と同じように普及期を迎えた段階では、ARPUが低下していき、粗利が減少する恐れはある。

 また、他社との競争環境の激化による値下げもARPU低下の直接の要因となりうる。他事業者がなりふりかまわず値下げを行うと、一気に投資回収の見込みが薄くなる危険性があると言える。

田中 弦 コーポレイトディレクション コンサルタント

※1 総務省「インターネット接続サービスの利用者数等の推移(速報)」より。
※2 総務省「インターネット接続サービスの利用者数等の推移(速報)」より算出。集計方法の変更により、若干の誤差が生じる。
※3 モデムレンタル料金は3カ月無料。

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