ある通信手段が、最近、アメリカ企業のトップの間で人気を集めている。
その通信手段とは手紙である。
「snail mail(カタツムリ郵便)」などと、やゆされてきた手紙が、スパムやウイルスなど、コンピュータ通信に関わるさまざまな厄介事が後を絶たないせいもあり、ここにきて見直されている。
大企業向けの財務管理およびインボイス作成ソフトウェアを開発するAceva Technologiesは、Fortune 1000に名を連ねるさまざまな企業と契約をまとめたが、最初のコンタクトはすべて手紙だったと同社の最高業務責任者(COO)Sanjay Srivastavaは語った。一方、HoneywellのIT部門ディレクターのSue Sadlerは、あらゆる売り込み手段の中で最も受け入れやすいのは、よく練られた手紙であることを認めている。
「メールは1日800通も受け取るから、うんざりだわ」(Sadler)
あるヘッドハンターは、新しいクライアントを開拓するときは、見込みのありそうな相手に宛てて、一人ひとりに手書きの手紙を書くのが一番だと言っていた。そうすると、たいていの場合、少なくとも返事だけは返してくれるそうだ。
Bill Clintonでさえ、900ページを超える大統領就任期間中の回顧録をペンで書き下ろしたと言われている。彼は、Lewinskyとのスキャンダルが発覚したとき、Hillaryに奥の小部屋に追いやられたらしいが、その時に回顧録を書くことを思いついたのだろうか。だとしたら、コンピュータを使えなかったことも納得できる。(そもそも、ホワイトハウスにそんな小部屋があるとは知らなかったが)
パピルスの発明で粘土版が消えていったように、デスクワークの世界では、もう紙はなくなっているはずだった。電子メールと比べて、紙には多くの欠点がある。紙は、場所をとるし、保管するにはファイリング用キャビネットが必要だ。しかも、破れたりなくなったりする。紙の提案書を作成し、全員からフィードバックをもらうには、提案書をオフィス中に回覧する必要がある。やがて提案書は、イニシャルの殴り書きとコーヒーの染みでぼろぼろになってしまう。
紙のメッセージを作成、配布、送付しようと思うと、たいていの場合、メールよりはるかに多くのコストがかかる。
一方、無料で手早い通信手段にも、いろいろと問題がある。電子メールのコストは微々たるものなので、スパム業者は、1000通に1通返事が返ってくれば十分に元が取れる。インターネットのトラフィック測定サイトSenderBaseによると、1日あたり6億6500万通のメールが大手ケーブル事業者Comcastのドメインから配信されているという。Comcastは、スパムの出所として大きく取り上げられてきた。この6億6500万通とは別に、1日に合わせて約23億通ものメールが、トラフィック量の多いトップ10のドメインから配信されている。スパムの洪水にうんざりしたユーザーが、本当に必要なメールまで捨ててしまうことも問題になっている。
何より問題なのは、メール通信における文化的慣習がまだ確立されていないことだ。メールの普及に伴い、機密情報やプライベートな情報を平然とメールでやり取りするようになってしまった。
インスタントメッセージ(IM)に至っては、ユーザーの意識がさらに遅れている。ほとんどのユーザーは、IMを「インタントレスポンス」のことだと考えているようだ。つまり、相手からすぐに応答が返ってくるものと思っている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス