Web 2.0時代の先行者に追いつくにはどうしたいいのか。どのようなサービスを供給すべきなのか。あるいは2.0の次に来る3.0の世界に備えるにはどうしたらよいのか――。
こうした類の相談を受ける機会が増えた。相談に対する答えを考える際に一番参考になるのは、過去の教科書だろう。そして、先行者ではなく後発者の利益を考えたほうが実際には役にたつと思われる。
既にこの連載の第2回目「Web 2.0の魔性に惑わされない心得」で、先走ってWeb 2.0時代への過度な期待や不安を抱くことは禁物であると述べたが、この考えには、一般に理解されているネットビジネスの時間軸に対する誤解がある。
インターネットの普及がもたらす「情報革命」による社会や企業の変化に関しては、昔から様々に語られてきた。例えば、MITメディアラボの所長であったネグロポンテの「ビーイングデジタル」(Being Digital)、「WIRED」の初代編集者ケリーの「ニューエコノミー 勝者の条件」(New Rules for the New Economy)、ボストンコンサルティンググループのエバンスとウースターによる「ネット資本主義の企業戦略」(Blown to Bits)などは、いずれもインターネットの普及から情報革命を予測し、そうした時代の社会変容のあり方や企業の対処法を示したものである。
これらのITやそれを活用した企業戦略の専門家による意見は、当時から大きな反響をもって受け止められてきた。実際、当時教科書とも考えられていたこれらの文献を読んだ衝撃はいまだ記憶に新しい。
これらの見解が衝撃を持って受け止められた原因は、当然その内容にある。しかし、これら識者の予見した未来が到来すると思われたスピード感は、その内容と同じくらい重要だろう。インターネットの普及とそれを支える情報技術は、当時から「ドッグイヤー」、あるいは「マウスイヤー」のスピードで進展すると思われていたため、当時予測された世界は、もうすぐそこまで来ているとの感覚を持たざるをえなかった。
ネグロポンテが「ビーイングデジタル」を著した1995年から、仮にドッグイヤーで計算すると、今年2006年で70年以上が経過したことになる。この間、確かにその後ケリーが指摘したように、われわれは「小さくなるコンピュータと大きく広がるコミュニケーション」の世界を生きているし、インターネットは彼らが当時予測したとおりの未来の扉を開きつつあり、企業の戦略もインターネット普及の影響を受けて変化しつつある。
しかし、彼らが予測したほど社会全体が大きく変容し、それを体感するまでには至っていないというのが、多くの人の実感ではないだろうか。つまり、彼らの予測したインターネットが開く未来像は正しかったが、そのスピードは僕たちが衝撃を受けたほど速くは進展してこなかった。事実、上に挙げたような文献は今現在読んでも示唆に富む。これは彼らの予測が未だに完全に実現していないことの証左ではないだろうか。実は、「ネットビジネスの時間軸」は僕たちが思うほどは速く進んではいない。
一般に、ネットビジネスの世界では先行者ほど利益があるとされてきた。しかし、以前バブルが崩壊した2000年から2002年にかけてネット企業の業績を分析した際には、意外な事実が判明している。この2年間、連続して増収増益となった企業のうち4割近くは、2000年のいわゆるインターネットバブルが頂点を迎えた年に設立されており、日本のネットビジネスの黎明期から活動していた企業ではない。つまり、先行者ではなかったのだ。
それでは、先行者利益論は間違っていたのかというと、それも違うだろう。米国のAmazonやeBayの例を挙げるまでもなく、ネット企業にとっての先行者利益は重要だろう。実は、2000年当時の日本はまだ新興のネット企業が先行者となれる時代だったのだ。
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