電通は6月23日引け後に新たな自社株買い実施を発表した。株価は翌24日から反転上昇の兆しをみせはじめたものの、出来高は目立った増加をみせず、依然として上昇も小幅にとどまっている。しかし、中長期的には株価の上昇に期待が寄せられている。同社の今後の業績動向と株価推移を探った。
同社は6月23日引け後に、信託方式による自己株式の市場買い付けを発表した。自社保有分を除く発行済み株式数の6.5%に相当する17万株を上限に、自社株の取得枠を設定した。6.5%は自社株買いとしてはかなりの大規模な水準といえる。取得額の上限は289億円で、取得期間は6月24日から12月26日まで。
同社はすでに5月13日から6月10日までTOB(株式公開買い付け)を活用した自社株買いを実施。25万1000株の買い付けを予定したが、応募数は12万9796株にとどまった。その後の自社株買いの実施について、一部市場関係者の間には懐疑的な見方もあったが、今回の発表で改めて会社側が自社株買いに対して強い意欲を持っていることが確認された。今後は委託を受けた信託銀行が年末までに市場で買い付けていくことになる。
広告代理店業界は、他の業界に比べて大手企業の株式公開自体の時期が遅かったことなどもあり、株式価値の向上や株主還元策の積極化など株主価値向上への意識が希薄という面は否定できなかった。しかし、現社長の高嶋達佳氏が就任(2007年5月)して以降は、従来から中期経営目標となっていた「売上高」、「営業利益」に加えて「ROE(株主資本利益率)」の目標達成を重要事項に加えてきた。ROEについては当面8%(2008年3月期実績6.5%)を目標としている。このROE8%については、各証券会社のアナリストもポジティブな評価を与えている。
また、今回の自社株買い発表に先立って高嶋社長は、6月上旬にロンドンでIR(投資家向け広報)活動を実施した。最近業績の動向や今後の経営方針、さらに自社株買いの実施についても説明した。社長自身が海外IRに出向いたのは同社が2001年に株式上場して以降初めてのこと。
同社は2009年3月期の連結業績について、売上高2兆830億円(前期比1.2%増)、営業利益584億円(同4.1%増)、経常利益687億円(同1.0%増)、純利益355億円(同2.1%減)と純利益を除いて前期比プラスを見込んでいる。社団法人の日本経済研究センターによると、2008年度の日本の総広告費の伸び率を前年度比1.6%増と予測している。さらに、8月8日からの北京オリンピック開催に伴う様々な広告出稿が見込まれている。また、2007年12月に持分法適用会社化したネット広告専業大手オプトとの協業拡大、海外売上高3000億円を目指したM&A(企業の合併・買収)の実施など、事業展開の幅を広げている。
同社の株価は、6月2日に26万6000円の高値をつけて以降下落トレンドをたどり、6月23日に21万8000円の安値をつけたものの、その後は自社株買いの発表を好感するかたちで反転上昇の兆しをみせている。東証の信用取引の信用倍率も直近で1.10倍と売り残、買い残のレベルが拮抗しており、取組妙味も十分だ。中期的には株価30万円台の回復も十分期待できそうだ。
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