キヤノンの株価が3月半ばから急ピッチでの上昇をみせ、8000円固めからいよいよ1万円乗せが視野に入ってきた。トヨタ自動車、松下電器産業など日本を代表する国際優良株と比べても、この1カ月間のキヤノンの株価上昇は際立ったハイペースといえる。これまで株式市場関係者の間では「キヤノンは誰もが認めるブルーチップだが、株価面での魅力はいまひとつ」との見方も少なくなかった。いよいよ、業績、事業展開力、株価動向のどれをとっても随一の国際優良株の盟主としての地位を固めることになりそうだ。キヤノンの株価上放れの背景を探った。
2006年に入ってのキヤノンの株価は、ほぼ下限7000円〜上限7500円レンジのボックス圏での往来相場となっていた。ところが、3月半ば過ぎから、このボックス圏を完全に上放れて一気に上昇波動を鮮明にし、一時8400円台をつけるなど短期間に急上昇をみせている。
業績面では今2006年12月期の連結業績(米国会計基準)で7期連続の過去最高益更新が確実視されるなど申し分ない。今期もカラー複写機、レーザービームプリンタ、デジタルカメラ、液晶用露光装置など主力商品のいずれもが好調な推移をみせるものとみられ、会社側予想の今12月期の連結純利益4150億円(前期比8%増)を上回り、実際の純利益は5000億円(同30%)程度に上方修正される可能性が濃厚となっている。
今12月期の連結純利益が5000億円に達するようだと、1株利益は560円となり、先週末4月14日の終値8300円で試算した連結PERは14.8倍となる。これはかなりの割安水準といえる。ちなみに、トヨタ自動車の14日終値での連結PERは19倍。もし、キヤノンをこの連結PER19倍まで買い進んだと仮定すると株価は1万640円となり、1万円を超えることになる。キヤノンのこうした、株価面での出遅れ感が内外の機関投資家に受け入れられ、世界のブルーチップに国際分散投資している堅実な機関投資家の投資対象となっているようだ。
同社は、今年から新たな中期5カ年の経営計画(フェーズ?)をスタートさせている。過去のフェーズ?、?を通して構築した強固な経営基盤を活用して、高い収益性を維持しながら企業規模の一層の拡大を図るという「健全な拡大」を目指すものだ。
具体的には(1)現行主力事業の圧倒的な世界ナンバーワンの実現、(2)多角化による業容の拡大、(3)次世代事業ドメインの設定と必要な技術の蓄積――などを推進することで、2010年12月期に売上高5.5兆円(2005年12月期3.7兆円)、純利益5500億円(同3841億円)以上の達成を目指すとしている。実際には、この中期計画はかなり前倒しで達成される可能性が高い。
同社は、100年先も現在の繁栄を持続できるような国際的な企業を目指している。同社の時価総額は、1995年末の1兆5600億円から10年後の2005年12月末には、4倍の6兆1300億円に増大したが、その間に年間配当金13円を100円(7.7倍)にまで引き上げて投資家への利益還元を積極化してきたことも評価できる。
こうして順風満帆のキヤノンだが、東芝と共同開発を進めている新方式の薄型ディスプレイの開発では本格発売の先送りを強いられている。この新方式は「SED(表面電界ディスプレイ)」で、消費電力がプラズマディスプレイの3分の1程度で済むうえに、ブラウン管並みの高画質を実現できるのが大きな特徴。従来の計画では、2005年8月からパネルのテスト生産をスタートさせる予定だったが、これを2007年の年末へと1年半延期すると発表した。本格発売が大幅な延期に追い込まれたのは、液晶やプラズマディスプレイの販売価格が予想を大きく超えて下落していることから、コスト競争力に耐えうるSED商品の開発には生産技術の向上に時間を要すると判断したためだ。
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