一段と調整色が強まる東京株式市場で、その弱気ムードに拍車をかけるような材料が飛び出した。野村証券金融研究所が10日、業種としての通信株の投資判断を「中立」から「弱気」に引き下げ、NTTを除く大手通信キャリア各社の個別レーティングについてもそれぞれ投資判断を引き下げたのだ。
個別の投資判断では、NTTドコモが5段階中の「3」から「4」へ(「3」が中立で、「1」が最も強気、「5」が最も弱気)、ボーダフォンは同「4」から「5」へ、KDDIも同「1」から「2」へとそれぞれ引き下げられた。
リポートによると、投資判断引き下げの理由について「今後、第3世代携帯電話(3G)事業の競争が本格化するため、セクター全体の投資判断を引き下げた」としている。この競争激化の背景には、2月初旬から順次投入されているNTTドコモの新型端末が乱売合戦を引き起こす可能性が高いということにある。
しかし、実際にはこうした通信セクターを取り巻く販売競争の激化は、当該業種担当の証券アナリストのあいだで「暗黙の了解」となっているのだ。つまり、野村証券が率先して猫の首に鈴をつけたといえよう。NTTドコモの3GサービスFOMAについては、累計の加入者数が来年度末1000万契約(今年度末240万契約予想)に達すると見込まれることから、インセンティブ(販売奨励金)の急増で来年度の業績は減益を強いられるとの見方が一般的だ。
この投資判断の引き下げを受けて、10日の株式市場は意外な展開となった。朝方は寄りつきからまとまった売り物に押されるかたちで各社とも前日比マイナスの推移となっていたものの、後場に入るとNTTドコモが急速に切り返してプラスに転じるなど多様な反応をみせた。
まず、NTTドコモは前場で一時、前日比4000円安の20万9000円まで売り込まれる場面があったものの、後場に入ると急速に切り返し、終値は同8000円高の22万1000円高値引けとなった。一方、KDDIは一時、前日比3万7000円安の54万5000円まで売り込まれるなど大幅安となり、大引けも同1万2000円安の56万円となった。また、ボーダフォンは小動きに終始し、前日比3000円安の25万2000円と小幅安に止まった。
値動きにかなりの差が出たことについて市場関係者は「それぞれの投資判断のランクが異なっていることから、引き下げ幅が同じワンランクでも反応がバラバラになるのは当然。とくに、NTTドコモは株価がすでにかなりの調整期間を経て、昨年来安値の20万1000円(2003年3月11日)に接近する株価水準となっていた。逆にKDDIは、全般下落局面のなかでも株価が60万円前後の高値圏を維持していたという背景がある」と分析している。
さらに、市場内部の需給的な要因としては、19日の新生銀行の上場を控え、その購入資金を捻出するために、時価総額の大きな通信株が格好の換金売りの対象となっていることもある。
ただ、通信株の今後の推移について市場関係者の見方は弱気一辺倒というわけでもない。外国証券のアナリストからは「KDDIは、今年度の純増加入者数の大幅な伸びで、利益回収期に入る来年度は約1000億円の利益上乗せが見込める。NTTドコモについても、これまで守勢であった立場を逆転して、携帯電話の純増シェアで巻き返す可能性も否定できない。とくに株価は下値限界に接近しており、中期スタンスの投資であれば買い場と考えてもよさそうだ」といった見方も出ている。
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