ソフトバンクの株価が、大型連休明けの6日から急上昇をみせ、5月2日には1364円(終値)だった株価が8日には一時1690円にまで買い進まれた。一般的には、同社が積極展開しているADSL事業の見通しが改善してきたことや、今期の業績回復への期待感により買いが先行しているとされた。9日の決算発表を受けての週明け12日の市場では同社の株価は156円安の1475円と急落しているが、これまでの株価上昇の背景には、株式市場独特の需給関係や物色の流れによる水面下の事情もあるようだ。
市場では、株価が6日に急騰した背景として、総務省の事業用電気通信設備等委員会が2日公表した報告書案で、ADSLの通信規格について「通信干渉は許容できる範囲」として接続約款の改正など新たな規制は行わない方針を打ち出したことによるとしている。これは、昨年8月に開始された通信速度12MbpsのADSLサービスでソフトバンクが「Annex A」と呼ばれる通信規格を採用したことに対し、「Annex C」規格を採用して市内回線網を提供するNTTグループが、通信障害を避けるためとしてソフトバンクに回線使用料の大幅増額を求めていたものだ。もしこのコスト増をそのまま通信料金に反映すれば価格競争力は完全に失われ、ソフトバンクが社運を賭けているインフラ事業の早期黒字化は絶望的なものとなる危機に立たされていた。この危機がとりあえずは回避されたことが好感されたというのだ。
しかし、9日に発表されたソフトバンクの2003年3月期の連結決算は(関連記事)、売上高こそ前期比0.4%増の4068億円と増加したものの、営業損益は前期に比べ損失が680億9600万円拡大して919億円の赤字、経常損益は同損失幅が765億円拡大し1098億円の赤字、最終損益も同損失幅が112億円拡大して999億円の赤字となった。これはブロードバンド事業の規模拡大に伴い、費用負担が増加したためだ。前期の連結最終赤字が約1000億円にも拡大した裏には、主要駅前などでのADSLへの勧誘やモデム配布などの無料キャンペーン実施で、1人の顧客獲得に3万7000円もの費用を掛けているというなり振りかまわない顧客の囲い込み戦略がある。
孫正義社長は「6月には有料顧客が200万人に達し、顧客獲得費用を除いた損益分岐点を突破する。蛇口(獲得費用)のひねり方次第でいつでも黒字を出せるところまできた」と発言しているものの、事業全体が黒字化する時期や来期の具体的な収益計画などは全く明らかにしていない。これでは、どこから見ても株価が上昇する要素はないのだが……。
中堅証券の投資情報部長はソフトバンクの株価上昇について「ソフトバンクの株価が上場来の安値をつけたのが昨年11月18日の827円。この株価下落の時期に信用のカラ売りをしていた投資家の買い戻しの期日(6カ月以内)が迫っていたことが要因としてあげられる。株価の急騰を見て売り方が買い戻しを急いだようだ」と述べている。また、ITバブルの崩壊で極端に下落していた光通信の株価が、野村証券による投資レーティング「2」(※)の継続をきっかけに急上昇してきたことが買い支援材料となったことや、厚生年金基金の代行返上に伴う売りへの懸念などから国際優良株を買いづらい相場環境のなかで、「米ナスダック相場の回復基調を手がかりにソフト関連など往年のITバブル相場時代のスター株を物色しようという心理も働いているようだ」と指摘している。
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