次世代薄型ディスプレイで勝負に出るキヤノンの成算はいかに

 日経平均株価が9営業日(9月15〜29日)連続下落となるなど、全般に軟調相場が続き、主力ハイテク株に年初来安値の更新が目立つ相場環境のなかで、キヤノンの株価が5000円台をキープする堅調な動きが継続している。キヤノンの新規事業に関する積極的な取り組みと、市場の株価面での評価を探った。

 キヤノンは今12月期も半導体ステッパーやカラー複写機、デジカメなど主力商品が順調な成長を続け、今期の連結経常利益は5200億円(前期比16%増)と過去最高利益を更新する見通しだ。さらに、将来的に同社の業績を大きく左右する可能性が高まっているのが、次世代ディスプレイのSED(表面伝導型電子放出素子ディスプレイ)だ。

 キヤノンと東芝は10月中に、次世代薄型ディスプレイパネル製造の合弁会社「株式会社SED」を設立する。両社はSED売上高を、本格量産開始する2007年で300億円、2010年には2000億円と見込んでいる。新会社は、2010年までには黒字化して累積損失解消を目指す。キヤノンの御手洗冨士夫 代表取締役社長は、次世代薄型ディスプレイパネルについて「2010年にはシェアトップを取る」と強気の姿勢をみせている。2005年8月から生産を開始予定、同年の年末商戦にはキヤノン・東芝の両社別ブランドの薄型テレビが発売されることになる。

 御手洗社長の強気発言の背景となっているSEDは、従来方式のCRT(ブラウン管)やPDP(プラズマ・ディスプレイ・パネル)と同じ自発光型の表示装置だ。従来の次世代薄型ディスプレイパネルと異なる特徴としては(1)高輝度、高精細で動画追従性に優れる、(2)色の再現性、特に、薄型テレビ市場で主流となっているLCD(液晶ディスプレイ)やPDPではコントラストがつけにくい黒色の階調に優れる、(3)LCD、PDPに比べ2分の1から3分の1の低消費電力である--といった特徴を持つ。

 SEDはキヤノンが89年から研究を開始し、99年からは東芝と共同開発を進めてきた。東芝の岡村正 代表執行役社長は「予想以上のパネル価格下落もあり、量産技術確立には時間がかかったが、競争力ある価格で安定供給できるメドがついた」としている。東芝は、映像事業の売上高について、2010年度に1兆5000億円(2004年度見込みは4900億円)を目指すとしている。新会社は来夏、現在のキヤノン平塚事業所で50インチの大型パネル生産を月産3000枚規模で立ち上げる。

 しかし、市場関係者の一部からはSEDのこうした楽観論に疑問を投げかける見方も出ている。「両社首脳は“究極の薄型パネル”と主張するが、技術的優位性はさておき、問題となるのは最終製品の価格と総額2000億円を投じる生産拠点の歩留まり率。この点、実際に工場が稼働し製品が投入されるまで業績への貢献度は不透明といわざるを得ない。ただ、現在のところ薄型テレビの主戦場は30〜40インチ台であり、50インチ台で競合するのはLCDよりむしろPDPやリアプロジェクションテレビ。日本国内よりむしろ米国、中国でのシェア争いが熾烈となりそうだ」との声が出ている。

 一方、SFBC証券では9月24日キヤノンの株価判断を「アウトパフォーム(強気)」から「ニュートラル(中立)」へと引き下げ、目標株価も6500円から4600円に見直した。同証券では「デジタルカメラに代わる成長事業が見当たらず利益成長の端境期入りが予想される」と指摘し、今後は精密セクター内ではデジタルカメラや半導体製造装置関連の影響が小さいリコーの株価がアウトパフォームすると予測している。

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