抑圧と自由の狭間で衝突--インターネット選挙運動

佐々木 朋美2007年09月10日 12時27分

 韓国では2007年12月19日、第17代大統領選挙が行われる。韓国の選挙といえばブロードバンド大国らしく、インターネット上での活動も盛ん。支持者による後援会掲示板が作られたり、候補者の写真や動画が公開されるなどして、活発な活動が行われる。

 しかしこうした活動が今、大きく規制されている。中央選挙管理委員会(以下、選管委)が公職選挙法に基づき、選挙を180日前にした6月22日から、インターネット上の選挙運動について規制すると発表したのだ。

 これによるといくつかの条項によって「選挙に影響を及ぼすような行為」が禁止されている。たとえば特定候補を宣伝あるいは非難するような、書き込みや写真掲載などの行為は規制の対象となる。最近ではネットユーザー自らが作成した動画や写真など「UCC(User Created Contents)」が大流行中だが、これも選挙に影響を及ぼすようであれば規制の対象だ。

 インターネット選挙運動が盛んになった結果、度を過ぎた広告文や、対立候補を非難するような書き込みがインターネットにあふれ、それを野放しにできない状態であるのは事実だ。しかし逆に厳しすぎる規制は、表現の自由を奪うものとなる。

 2007年9月4日、市民団体の参与連帯をはじめとした6団体と192人のネットユーザーたちは、「公職選挙法」の93条を始めとした項目が、憲法21条が保障している「表現の自由」に違反していると主張。ソウル市内にある憲法裁判所前で「公職選挙法93条 憲法訴願請求書受付のための記者会見」を行った。

 93条というのは「政党や候補者を、支持・推薦もしくは反対する内容が含まれていたり、政党の名称または候補者の姓名を現す広告/張り紙/挨拶状/写真/文書・図画/印刷物/録音・録画テープ/その他これと類似したものを配布・貼り付け・散布・上映・掲示する行為を禁じる」というもの。これに違反した場合は、2年以下の懲役か、400万ウォン以下の罰金を支払うことになる。

 選管委ではまた、93条による選挙運動規制と同時に「UCC運用基準」も発表しているのだが、これによると選挙に影響を及ぼすUCCも規制の対象となり、一切アップロードできないということになる。インターネットを無視できない時代にこうした規制。同団体は「とくにUCCを通じた政治的意思表示の自由を明らかに侵害している」と、UCC活動の規制の不当性を主張する。これにより国民の政治参加機会や意思が萎縮するので、政党は時代錯誤な公職選挙法の改正の論議を進めてほしいという。

 確かに選管委による厳しい姿勢には、6月22日の発表当時からネットユーザーによる批判や憂慮の声が多かった。インターネットが情報収集や発信のための主要な手段になっているのにも関わらず、それを法規制で押さえ込むような形になっているからだ。また「法規制の対象にならない“単なる意見公開”と、“選挙に影響を及ぼす発言”とで、法では明確に区別できないという点からして、憲法上の明白性の原則に違反する」(参与連帯)という指摘もある。

 しかし一方では、一部で行き過ぎたインターネット上の選挙行為が行われているのも確かだ。

 とあるネットユーザーは2007年3〜6月の間、メディアや国会議員のウェブサイトに特定候補を非難する書き込みを、約100回にわたり行い告発されている。また別のネットユーザーは特定候補に反対する動画UCCへのリンクを、複数のメディアおよび公共機関のウェブサイトに書き込み、警察による捜査を受けている。特定候補者を応援するような、もしくは非難するような報道を行ったインターネットメディアに対しては、警告文掲載措置がとられたこともあった。

 現大統領の選挙が終了した後の2003年から2007年7月末までに、選管委によって公職選挙法違反と見なされたインターネット上の活動は計3万3851件にも上る。選管委によると、第16代大統領選挙の際の同様の事例は1万1456件というから、今回は選挙日の数カ月前で既に2倍以上に達する数値となっていることが分かる。こうした行為は選挙日が近づくにつれて目立つようになるので、この数値は今後も増える見通しだ。

 インターネット上での活動が票集めの大きな原動力となった16代の大統領選挙以降、選挙とインターネットは切っても切れない関係になっている。時代の変化に伴って状況は変わり、逆効果が出れば規制も必要となるもの。エスカレートするインターネット選挙運動を法で抑えたい選管委と、表現の自由を求めるネットユーザー、折り合いがついていない双方が歩み寄って、話し合いが必要となりそうだ。

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