2006年12月下旬に公開された韓国映画「中天」は、これまでないほど質の高いCG技術を駆使したことで話題となった映画だ。
中天とは、亡くなった人の魂が49日間とどまるという、現世と天界の間の世界のことを指す。この中天を舞台に繰り広げられる、アクションあり、恋ありのファンタジー映画だ。
中天は2005年早々からCGチームが結集し、約2年間の作業を通じて完成した。12もの企業および研究所などがコンソーシアムを結成して進められたCG作業には、300人以上もの人員が投入されたという。結果、約1900カットある全カット数中、CGカット数が約750カット以上にも及ぶこととなった。
コンソーシアムの中には、国立の研究所である韓国電子通信研究院(ETRI)も参加していた。中天には同研究所が開発した「デジタルアクター」というCG技術がふんだんに盛り込まれているのだが、これこそが中天のCGの評価を高めた理由である。
このデジタルアクターは、高品質CG特殊効果技術により、実際の人間並みの容姿と動きを持ったCGキャラクターおよび背景などの特殊CG技術だ。2003年から年間72億ウォン(1月22日現在の換算レートで約9.3億円)もの資金を投入し、ETRIのデジタルアクター研究チームによって開発された。
本当の人と区別がしにくいほどの完成度の高さを誇るデジタルアクター技術によるキャラクターの動きや表情、質感は、顔写真のキャプチャー、皮膚のレンダリング、モーションデータ処理および動作生成技術のほか、背景となる風景や水などの物質のシミュレーション技術といった数々の技術の組み合わせで実現する。
この技術により中天では、3万人もの怨霊兵や、ワイヤーアクションだけでは実現できない、剣を手に飛び回る主人公、現世離れした風景やおどろおどろしい赤い雲など、CGなしには実現が難しいあらゆる場面を、あたかも本当であるかのように映し出した。そしてその完成度の高さは専門家から高評価を得ることとなったのである。
デジタルアクター技術は、中天以外の映画にも採用された実績がある。2006年夏に公開された「韓半島」においては海原を艦船が進むシーン、また音楽を主題とした映画「ホロビッツのために」では、俳優の頭の映像に体を合成してピアノを弾いている場面を再現するなど、大規模撮影や実現困難な場面にフル活用された。
ハリウッド映画ではCG専門チームが構成されるのに対し、これまでの韓国では小規模なCGチームだけしか結成されなかった。というのは、韓国映画でCGを大規模に使う傾向があまりなかったほか、それほど良い結果も残せなかったからである。
実のところ中天も商業的に成功した映画とはいえなかったのだが、韓国のCG技術に注目を集めるきっかけになったという点においては意義が大きい。これを機に韓国のCG技術が見直され、良い映画作りのためにCGを活用しようとする動きが活発になっていきそうだ。
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