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何年も前なら、たとえコミュニケーション下手であっても、優秀なプロジェクトマネージャーとして通用したかもしれない。無論、クライアント側ではそんな人物を相手にすることを好んではいなかったが、それでも約束したものさえキチンと納品できている限り、クライアントはそんな相手を受け入れていた。だが、今日の新しいIT業界では、プロジェクトを進める上で、実務担当者とのパートナーシップは欠かせないものとなった。そして、このパートナーシップを作り上げるためには、しっかりとしたコミュニケーション能力が欠かせない。実際に、プロジェクトを進めていく間に持ち上がる問題の多くは、コミュニケーション下手のせいで生じるもの。コミュニケーション崩壊の前兆を見つけだし、それに対処するためのノウハウを持っていなければ、賢いプロジェクトマネージャーとはいえない。
問題が起こりがちな部分
いったんコミュニケーションの問題が手に負えなくなり始めると、プロジェクト自体の成功も覚束なくなる。次のような厄介な部分に目を配り、問題の兆候を見逃さないようにしよう。
プロジェクトマネージャーは、納品物や納期、コストなどについて、プロジェクトに関わる全員の期待するものを一致させるよう努めなくてはならない。まずはプロジェクト定義書のなかで、こうした期待を明文化しておこう。だが、期待するものが変わった場合に、主要な利害関係者にそれを伝え忘れるプロジェクトマネージャーが多い。人は手許にある最善の情報に基づいて判断を下すから、もしプロジェクトマネージャーが皆の期待を一致させておかないと、すぐにチグハグな状態になりかねない。
常に関係者へ情報を流しておかないと、何か変更が生じた場合に、彼らに不意打ちを食らわせてしまうことになる。たとえば、このままでは納期に遅れそうだというときに、事前に一言知らせることもなく、いきなり進捗報告書にそのことを書いてしまうと、クライアントがびっくりしてしまいかねない。プロジェクトマネージャーの立場にあれば、誰しもそんな事態を望みはしないだろう。
積極的なコミュニケーションとは、納期に遅れる危険性を察知したらすぐに、その問題提起をするということ。そして、納期に向けた状況を継続的に公表すること。そうしておけば、もし本当に納期に間に合わないと告げなくてはならない事態になっても、他の人たちはそうした結果が起こる場合に備えているので、それほど驚いたりはしない。逆に、ぎりぎり間際になって、悪い知らせを初めて聞かされると、聞いた側では腹を立てたり、がっかりしたりする。状況を変えようと何かしてみるだけの時間が残されていないからだ。
重要な利害関係者がプロジェクトの進捗状況をはっきりと把握していない場合がある。もし、きちんとした情報を得ていなければ、最良の判断を下すことなど叶わない。そして、いまどのような状態になっているのかをきちんと理解していないと、もっと情報を集めるために余計な時間をとられてしまう。実際、あなたが彼らに最新の状況を知らせた時に、さらなる説明を求められたら、それはあなたの伝え方に問題があることを物語っているのかもしれない。
この状況では、プロジェクトマネージャーが他の人たちに影響を与えそうな事柄に関して、自分のほうから前もって知らせていない。そして納期間際になって、はじめてコミュニケーションを取るから、皆が大慌てになる。
一例を挙げると、プロジェクトマネージャーがリソースマネージャーに対して、チームメンバーが開放される当日になって、初めてそのことを知らせるというのがある。別の例では、プロジェクトに特定のスペシャリストが必要であることを3カ月前から知っていながら、実際に必要になる前の週になって、やっと本人に話をするというのもある。どちらの場合にも、他の人たちにはこうした状況に備える充分な時間がない。
先に挙げた例は、コミュニケーションの問題がプロジェクトマネージャーと外部の人間との間で生じるものだった。しかし、同じ問題はプロジェクトチームの内部でも起こり得る。チームのメンバーと話すのが下手で、各々のメンバーに何をしてもらいたいかをきちんと伝えられないプロジェクトマネージャーもいる。プロジェクトマネージャーが、各メンバーに割り当てた仕事がいつ終わるかよくわかっていない場合もある。また、プロジェクトマネージャーの頭の中に、こんなものを納品したいというイメージがあっても、それを任せられた担当者がまずイメージと違うものを上げてくるまでは、そのことを知らせないという場合もある。さらに、プロジェクトマネージャーが明快な指示を出さないために、チームのメンバーが不必要な作業に時間を費やしてしまうという場合もある。こうした問題すべてが、プロジェクトマネージャーとメンバーの双方に、追加作業と余分なフラストレーションを強いてしまう。
どのような解決策があるのか?
もともとがコミュニケーション下手なプロジェクトマネージャーもいる。自分がそういうタイプだと思う人は、上達するようにトレーニングに参加したり個人レッスンを受けてみるとよい。だが、ほとんどの場合、コミュニケーションに問題があるのは、そのためのスキルを欠いているせいではなく、注意を払っていないせいだ。自分のほうから積極的にコミュニケーションを行うことをおざなりにしているプロジェクトマネージャーが多い。それで、いざ口を開いてみると、舌足らずで暗号じみた言葉の繰り返しになってしまう。それでは、まるで出来るだけ手間をかけずに済まそうとしているように受け取られかねない。
何かを伝えようとするときには、自分ではなく、相手を中心に考えてすることが肝心だ。相手が何を必要としているか、そして、どのような情報が相手にとって最も役立ちそうかを考えるようにしよう。進捗レポートを書いているなら、相手がプロジェクトの偽らざる実体を理解するために必要な情報、たとえば達成項目、問題点、リスク、スコープ変更その他などをすべて盛り込もう。将来、あるリソースが必要になるなら、できるだけ早くリソースマネージャーにそのことを伝えておこう。そして、実際にそのリソースを使う時期が近づくにつれ、何度でも念を押しておくことだ。
万が一誰かを驚かせてしまったら、それはプロジェクトマネージャーである自分が効果的にコミュニケーションを行っていない印だと受け取ったほうがよい(唯一の例外は、自分もまた不意を付かれるようなことが起こった場合だけだ)。プロジェクトマネージャーは自分のチームメンバーを相手にする時にも、はっきりと考えを伝えるべきだ。メンバーが自分の作業の完了予定日をよく分かっていなかったり、必要もないことをしているのを見つけたら、自分がきちんと彼らに仕事を頼んだかどうかをまず考えてみることだ。
問題を抱えるプロジェクトはたくさんある。そして、コミュニケーション下手がそんな問題の原因になることも、またそれを悪化させることもある。反対に、自分のほうからコミュニケーションをとることが、多くの過ちを乗り越えるのに役立つこともある。だから、コミュニケーションを必要悪と考えないこと。そうではなく、自分の関わるプロジェクトを円滑に進めるために利用してしまおう。そうすればフラストレーションも少なくなり、不確実な部分も減って、人を驚かせてしまうこともなくなる。
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