以前ここでオンライン音楽の動きについてこちらの事情を紹介したが、フランスでいま、オンライン音楽が大きく動いている。8月末に2つの音楽サービスがスタートし、話題となった。
まずはISP2番手の仏Neuf Cegetel。同社は8月20日、自社インターネットサービス加入者に無制限音楽ダウンロードサービスを提供することを発表した。
こちらのISPはインターネット(ADSL)、IP電話、IP TVの3つをセットにした“トリプルプレイ”を展開しているところが多く、今回Neuf Cegetelは大手レコードレーベルのUniversal Musicと提携し、トリプルプレイに音楽ダウンロードを追加した形だ。もちろん、無制限音楽ダウンロードといってもいくつか条件がある。まず、Neuf Cegetelが現在提携しているのはUniversal Musicのみなのでカタログが制限されるし、申し込み時に無制限ダウンロードしたいジャンルを1つ指定しなければならない(追加料金4.99ユーロを払えば、ジャンルを問わずに全カタログから無制限ダウンロードできる)。
なお、Universal Musicの親会社である仏Vivendi Universalは、Neuf Cegetelにも出資している。Vivendiといえば、数年前に汚職事件が大きく取りざたされた複合企業だ。その後、テレコムとメディアを軸に再生を図っており、今回の動きはVivendiの戦略という点から見てもおもしろい。
Neuf Cegetelが音楽サービスを発表した2日後、今度はDeezerというフランスベースの音楽サイトが「無料かつ合法」の無制限ストリーミングサービスを開始した。実はDeezerの前身であるBolgmusikは、2007年2月に閉鎖した音楽サイトだ。今回の合法サービスの提供は、当時閉鎖するようプレッシャーを与えたフランスの音楽著作権団体SACEMと合意してこぎつけた。Deezerは広告モデルをとり、収益をSACEMと分け合う(SACEMはその後、著作権所有者に還元するということのようだ)。サイトの使い勝手はなかなか。ユーザー登録などは一切不要で、すぐに楽曲をフルでストリーミングできる。カタログはThe Beatles、Daft Punkなど20万曲を用意、iTunesで購入できるボタンも付いている。
だが、Deezerがサービスを開始してすぐに、先のUniversalが自社楽曲の削除を要求した。Deezerでは、音楽レーベルらと話し合い中としているが、他のレーベルがUniversalの動きに従う可能性もあり、今後どうなるのか分からない状況だ。ローンチ前にレーベルと提携しておくべきでは、という意見について、Deezerの担当者は、「YouTubeも最初にサービスを開始して、その後コンテンツプロバイダと提携している」とコメント。さらには、サービスはストリーミングだけのはずなのに、ダウンロードに成功という情報も出ている。このようなことから、Deezerは今後、アクセスをフランスのIPアドレスに限定するのでは?という予想もある。
ここまで書きながら、どうしてフランスは音楽ダウンロードでさまざまな試みが進んでいるのだろうかと思った。フランスは芸術の国、著作権などアーティストの権利に伝統的に敏感なことが影響しているのかもしれないし、単にフランス人はケチでオンライン音楽にお金を払いたくないだけかもしれない。
この2つのサービスとちょうど時を同じくして、ソニーが欧米で展開していた対iTunesサービスの「CONNECT」閉鎖を発表したことも付記しておく。
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