先日、ベルギーの友人が遊びに来た。ベルギーからフランス・パリまで車で約3時間。高速道路ではパスポートを提示することなく国境を越えられるし、同じ通貨で買い物ができる。EU圏内では国境は確実に薄くなりつつある。だが携帯電話には国境がある。
携帯電話の国境とは、国際ローミングだ。EU諸国はGSM標準を採用しているので、EUの人は国外でも自分の携帯電話をそのまま使える。だが、オペレーターが徴収するローミング料金は無視できない高さだ。EUの調査によると、現在、ベルギーの人がキプロスで自分の携帯電話を利用して4分通話をすると通話料金は10ユーロになるという。なので当然、国際ローミングを利用するユーザーは少なく、全体の3分の1程度といわれている。そのうち約75%はビジネスユーザーだ。私のベルギーの友人も、フランスに入ると携帯電話をオフにしたと言っていた。
高い国際ローミング料金に一番困っていたのは、ほかでもないEU関係者かもしれない。EU関係者はEUの本部や機関があるブリュッセル(ベルギー)とストラスブール(フランス)を行き来する必要がある。EUは2年前から国際ローミングを問題視し、オペレーターに対し、自主的に料金を下げるよう促してきた。だが、効果はほとんどなし。そこで、EC情報社会・メディア担当委員のVivienne Reding氏は規制に乗り出した。
そして今年5月末、欧州議会は国際ローミング料金の上限を制定する法案を可決した。この規制では、「ユーロタリフ」として、他国に電話をかけた場合のローミング料金の上限を49セント(1分)、電話を受信した場合は24セント(1分)と定めている(対象は音声通話のみ。SMSを含むデータ通信は対象外)。規制は、早ければ今年の8月より段階的に導入され、ローミング料金は最大で70%下がることになる。
3Gライセンスの負債に苦しむ欧州オペレーターにとって、手数料という名目で堂々とユーザーに課すことができる国際ローミングは大きなドル箱だった。EUによると、EUローミング市場は85億ユーロ。ローミングによる売り上げはオペレーターの売上高の10%を占めるといわれている。当然、今回の規制は痛い。たとえば英Vodafoneでは、この規制により、2008年までの間で2億〜2億5000万ポンドの売り上げ減を見込むとしている。
オペレーター各社は今後、新規制によるローミング売り上げ減の穴を埋める収益源を見出す必要がある。国内通話料金の値上げを予想する向きもあるようだが、国内通話市場はどこも、安価な通話サービスを売りにしたMVNO、モバイルVoIP、固定電話事業者の進出(FMC)などによる激しい価格競争が起こっている。単純には解決策にならないはずだ。
欧州の携帯電話オペレーターにとって、厳しいビジネス環境はまだまだ続きそうだ。
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