サイボウズ創業者の高須賀氏が見果てぬ世界一への夢:後編 - (page 4)

構成:別井貴志(編集部)2006年09月22日 09時00分

小池:やっぱり日本でそういうビジョンを持って、自分でそのアクションを起こして思い込んでやっていく起業家が必要なんですよ。僕も10年以上アメリカに住んでいて、自分も起業家として生きてきましたけど、投資インキュベーションをやって、アメリカで投資をしてきたときと、日本でいま投資をしているものとの一番の違いは、とにかくグローバルなビジョンがあるかどうかというのが一番違いますね。

 アメリカの事業計画、ビジネスプランは、セールス・マーケティングのところは、だいたい「北米でこのぐらいの市場規模になります。ヨーロッパでこのぐらいの規模になるでしょう。アジアでこのぐらい狙います。日本でこのぐらいです。だからこのぐらいのビジネスになりますよ」とくるわけで、最初から世界市場を見るのが常識ですよ。

 ところがね、僕は日本の起業家で最高に不満なのは、アメリカでやっているようなもののコピーがそもそも多いんだけど、彼らのプランというのは、「アメリカでこのぐらいの市場があります」と、「日本はその10分の1ぐらいなのでこのぐらいのマーケットあるでしょう。その何%のシェアを取ります」みたいな、どんどん小さくなってそこを狙いますという話が多いんです。

高須賀:僕、それが嫌なんですよねえ。

小池:なぜね、せっかくこのインターネットというワールドワイドな環境があるのに、そうやって縮み思考でものごとを考えて……。オポチュニティの中をどんどん狭めて無駄にしているんですよ。

 ある意味で島国根性というか、最初からそういう考え方にさせられた教育とか環境があったんだと思うんだけど、やっぱりグローバルに出て行かなければいけない。じゃあ、北米に進出しようとかなんだとかいうと、やれ英語がとか、マーケットがわからないとか。

 わからなかったらわかる人間に頼めばいいだけの話で、もちろん高須賀さんがアメリカでやるといったって、高須賀さん自身がマーケティングするわけじゃなくて、北米は北米をわかった連中がやって、ヨーロッパはヨーロッパでやるわけだから、そういうビジョンを持ってフォーメーションをどう作るかという話ですよね。それがほんと日本の起業家に一番欠けているところなんですよ。

高須賀:ほんと向こうの人は大胆ですよ。大胆というか、やっぱり狙っているところが大きいですね。どうなるかわかりませんけど、今日ちょっと恥ずかしいんですけど、僕がいまやろうとしていることが向こうの新聞に載ったので、持ってきました。

 オレゴン州では一番メジャーなオレゴニアンという新聞なんですが、そこの1面に載っちゃいましたよ。オレゴンではちょっと騒ぎになっちゃっているんです。変なやつが日本から来たんで。たまたま紹介で、その記者にすごく興味を持たれて。

小池:じゃあ、この新聞に出ている範囲ぐらいのことはなんとなく話せる? あ、3年で1000万ドル突っ込むって書いてあるけど。あと、シリコンバレーじゃなく、オレゴン州のポートランドで展開するんだね。

高須賀:新聞には新しい事業のことは何も書いていないですけどね(笑)。これは僕の経験則からなんですが、とにかく最初の第一歩目はすごくハードルが高い。誰が最初のお客さんになってくれるか。最初のうちにどれぐらいの支援者がいるか。それがすごくベンチャーの中では重要で、僕は愛媛でスタートしましたから、たくさんお客さんになってもらって、たくさん話題にしてもらって、すごいスタートアップがスムーズだったんです。だから、サイボウズは初年度からずっと黒字経営でやれてたんだと思うんです。

 そこからのインサイトってすごいんですね。かつ、東京だとノイズがすごく多くて、目立ちもしないし、記事にもならないし、インプットはないし、手伝ってもくれない。田舎は記事にもなるし、助けてもくれるし、みんな話題にしてくれるし、すごく興味を持ってくれる。

小池:すごいストラテジックなマーケティングセンスがありますね。さすがに。

高須賀:もうここの場所はばっちりですね。ポートランドは今、「あいつら、何やねん?」みたいな。エコノミックの人たちの中ではもう徐々に浸透し始めています。そういう意味で成功しています。新聞にもこうやって載るわけですし、事実、これ、シリコンバレーだったら絶対に載らないですね。シリコンバレーだと一歩目のハードルが相当高いんです。

 でも、3年で1000万ドル使うなんて「アホちゃう?」とみんなに言われます。いろいろな人からいろいろなことを聞かれますね。ポートランドのベンチャーの人から、「なんでサイボウズ続けなかったん?」とか、「そんだけ資産があったらもうええんちゃうの?」みたいなこととか、彼らから見ても愚行きわまりない。

小池:ほほう。この記事はおもしろいね。結構、サイボウズのことがちゃんと書いてあるな。でも、たしかに新しい事業のことはなにも載っていないなあ。

高須賀:僕、サイボウズのことしかしゃべってないです(笑)。でも、新聞の1面に載っちゃったからもうすごい問い合わせが。僕のところじゃなくて、そこに出ている記者とか、うちの弁護士とかにすごいいっぱいコンタクトがあったみたいです。

小池:じゃあ、もうアメリカで登記はしてあるわけね。

高須賀:もう事務所もありますし。社名は「LUNARR」(ルナー)といいます。綴りが変なんです。ダブル「R」です。冗談で「英語を知らないから綴りを間違ってしまった」と言うんですが、それはアメリカギャグではないみたいです。日本的にはいけるかもしれないですけど。

小池:この新聞には、ティー・トゥー・ワークスっていう会社のことも載っているけど、これは何?

高須賀:ティー・トゥー・ワークスというのは、愛媛に名前だけある僕の個人会社で、実はLUNARRの100%親会社なんです。個人会社って何のためにやっているかというと、実はLUNARRの支援をしている会社なんです。僕がこうやって動いてる経費とか給料とか、全部ティー・トゥー・ワークスから取り崩しているんです。そのための会社です。

小池:いつぐらいになったら新事業のことを詳しく話せるようになる?いつ頃立ち上がるの?

高須賀:そうですね、僕は結構向こうに長いこと行くようになると思うので、向こうで立ち上がってきたら、ですかね。一応、さっきのサイボウズのときの事業計画書よりもっとちゃんとした計画を立てているんですが、一応5年後ぐらいには世界がヤバイと思ってくれる状況にしたいですね。「あいつらをほったらかしておいたのがまずかった」と言われるような状態にはしておきたいですね。

小池:いやあ、おもしろいね。いい意味で、こういうリアルアントレプレナーがほんとにベンチャー。ベンチャーってアドベンチャーだからね。

高須賀:夢を実現する、社会を変える。僕、辞めてからこうやって人にお話ししたのは初めてですね。

小池:そうでしょう、本邦初公開だね。ドリームを見てリスクをとってやる。いやあ、すごくわくわくしますね。これは期待できる! ここでのインタビューが、3年後日本のビル・ゲイツのインタビューになっているかもしれないよ(笑)。

高須賀:どうなるかわかりませんけど(笑)。頑張ります!

アントレプレナーへの言葉--小池聡

 昨年の春に、高須賀さんから食事に誘われた。今度、社長を青野さんに譲り、会長としてM&A戦略を指揮するので協力して欲しいという話だった。

 今思えば、その時の高須賀さんの目はあまり輝いていなかったように思う。創業から東証マザーズ上場、東証二部上場と順調に会社を成長させてきた安堵感からか、会長職に退いてM&Aを担当することに前向きな情熱が感じられなかったのだろう。

 約10年前の創業間もない頃に、高須賀さんから事業計画のプレゼンを受けた時のことを鮮明に覚えている。その時の高須賀さんの目は本当に輝いていた。人に説明をするときに相手から目をそらして話す人がいるが、高須賀さんは相手の目を眼光鋭く見て、目で訴えかける眼力がある。本当に伝えたいことがある時、自分が熱狂している時にそういう目になるのだと思う。

 今回の対談では、以前に増して目が輝いていた。輝きの度合いは、よく昔の少女漫画にあるような、目の中に星がいくつもある、まさにあの目である。社長から会長になることは、新聞発表もされ株主総会通知の印刷まで行われていた。しかし、それを急遽取りやめて印刷も刷り直し、サイボウズの保有株も売却し、完全に退任する決断をした。そのオポチュニティーと出会って3秒で決断したという。そこまで打ち込みたい事が見つかるというのは幸せなことだが、今、アメリカのポートランドでやろうとしている事業がよっぽどエキサイティングな事業なのだろう。

 私はアメリカで色々な経営者に会う機会に恵まれた。一様にいえる事は、経営のトップになる器量を持った人は、非常にマクロに物事を捉えるのが得意で大局的な判断をする。また、思い込みも激しく、決断も早い。日本の経営者には、一部のオーナー経営者を除いて、残念ながらマクロな事にこだわって、自分では意思決定できずに合議制で、リスクが取れない経営者が多いように思う。特にサラリーマン経営者は失うものがあるとリスクのある決断ができないのだろう。

 しかし、常に何か新しいオポチュニティーを求めている人にとっては、その何かが見つかってインスピレーションとして「これだ」という確信が持てた時に、そのオポチュニティーを取るリスクよりも、オポチュニティーを失うリスクを恐れる。だから瞬時に決断できることが多い。決断できる人と出来ない人で、その後の人生も大きく変わってしまうのだろう。高須賀さんは、もし仮にこのプロジェクトが失敗して全財産を失ったとしても、今回の決断を絶対に後悔しないと思う。

 「リスクを恐れず決断せよ。オポチュニティーやチャンスは待ってくれない。最大のリスクは機会損失のリスクである」

小池 聡

iSi電通アメリカ副社長としてGEおよび電通の各種IT、マルチメディア、インターネット・プロジェクトに従事。1997年にiSi電通ホールディングスCFO兼ネットイヤーグループCEOに就任。シリコンアレー、シリコンバレーを中心にネットビジネスのインキュベーションおよびコンサルティング事業を展開。1998年にネットイヤーグループをMBOし独立。1999年に日本法人ネットイヤーグループおよびネットイヤー・ナレッジキャピタル・パートナーズを設立。現在、ネットエイジグループ代表取締役、ネットエイジキャピタルパートナーズ代表取締役社長などを務める。日米IT・投資業界での20年以上の経験を生かしベンチャーの育成に注力。

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